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ダウン症とは? 思春期・成人期~成人後と認知症のはなし

【コロナ近況】

前回のコラムを書いてから、まだ1か月と経っていないのに、世の中のコロナの話題はすっかりオミクロン株に移りました。24文字のギリシャ文字もすでに15番目まできてしまいました。足りなくなったときは星座の名前になるそうですね。

特に、何らかの障害をお持ちの方はコロナ感染に対し、ひやひやしながらお過ごしのことと思います。感染そのものの問題だけでなく、経済はもちろん、世の中全体のメンタルの部分に与えた影響は非常に大きいものでした。国産ワクチンだけでなく、重症化を防ぐ安価で安全で効果的な薬が登場し、未来が展望できる時まで、皆で乗り越えましょう。

【思春期・青年期】

読者の皆様の思春期はいかがでしたか?自立の過程は、ダウン症を持つ方々も同じです。自信がなく不安で親を頼る気持ちと、周囲の介入をうるさく感じる部分とが混在しています。本人に任せることなどできないと思う親は、強く指導介入するのも無理もないのですが、自立心が芽生えていることを喜び、褒めることを忘れずに上手に指導なさってください。

褒められることは赤ちゃんから100歳越えまで、いつでもうれしいものです。また、家事を手伝わせることは一石二鳥か三鳥になります。多少は家族の忍耐力も必要ですが、身の回りに学ぶ材料はたくさんあります。練習しなければ身に付きません。

基本的マナーなどの習得は、性発達のみられる思春期にも今一度見直してください。恋もするし失恋もします。女子では月経が他のお子さんと同様に小5~6頃に始まります。親御さんの心の準備も必要です。これをきっかけに、主治医と一緒に、小児科年齢を過ぎた後の医療機関選択を考えることも良いタイミングです。医療サイドでも移行医療と言って、昨今大きな課題になっています。日本ダウン症学会から「ダウン症候群のある患者の移行医療支援ガイド」が2021年に出されましたので、ご参考にして下さい。

肥満、高脂血症、高尿酸血症などの生活習慣病は、毎日の食習慣、行動パターンに遺伝的要因も加わり、早ければ学童期後半から発症してきます。決してダウン症のせいだけにしないでください。尿酸値を下げる薬を飲んでいるお子さんは、ご家族も同じ薬を飲んでいることが多いですよ。

ふっくら体型になりやすい体質なので、体重が増えることのみを警戒するのではなく、運動量の確保が何よりも大切です。特にコロナ禍では、これまで通っていた水泳、ダンス、あるいはカラオケや楽器演奏等、運動やストレス発散の場がなくなり、肥満が進行し始めた方が少なくありません。いったん運動習慣が途切れると、再開するときに億劫になる傾向がありますから、ご注意下さい。お子さんの体重が増えたと心配されている場合、たいていは親御さんも少しふっくらなさっていますから、ご家族全体での対策が必要です。

睡眠時無呼吸の合併頻度は高く、睡眠の質を下げ、日中の眠気やいらつきも目立ちます。お休みの際、いびきは強いですか?いびきの音が10秒も止まるようでしたら、即刻病院を受診してください。これまた父親も同様という方が多いです。

一部の方にみられる現象で、いわゆる「急激退行」がよく知られていますが、原因はいろいろです。教育分野から始まった表現で、思春期以降1~2年程度の短期間に心身両面の活動度が著しく低下する状態を指します。甲状腺機能低下症であれば治療ですぐ改善しますし、家族構成の変化や職場でのストレスによる反応性うつ、心身症では環境改善や指導方法の修正で、時間はかかっても改善されることが多いのですが、妄想や感情不安定が著しく、睡眠障害、暴力などがみられるときは、抗精神薬も必要です。

【成人後と認知症のはなし】

ダウン症の生命予後はこの数十年で飛躍的に伸びましたが、さまざまな老化現象が一般人に比べて20~30年以上早いと言われます。少なくとも年に1回は医療機関で総合的にチェックし、合併症の早期発見と早期治療を行うことがとても大切です。固形がん(白血病などのがん以外)は一般人よりかなり少ないのはうれしいことです。

皆様ご存じのアルツハイマー病は認知症の代表的疾患で、全世界におそらく2,000万人以上とされ、多数の治療薬の治験が進んでいます。アルツハイマー病では脳の中にアミロイドベータ(以下Aβ)などの物質がたまり、神経細胞を変性させ、脳の萎縮につながります。Aβをつくる遺伝子が21番染色体に乗っており、他の要因とも合わせて、ダウン症ではアルツハイマー病を高率に発症します。

治験薬のアデュカヌマブは脳内Aβの蓄積を減少させるとの評価から、アメリカFDAは2021.6.7に先駆け承認し注目を浴びていますが、臨床的な認知機能低下抑制のエビデンスはまだ不十分で、まだダウンに対しては推奨されないと明記されており、おあずけ状態です。脳内での異常タンパク蓄積が始まる前の対策、せめて蓄積した物質を安全で効果的に取り去る方法ができることを楽しみに待ちましょう。

ダウン症に優しい社会は、すべての人に優しい社会のはずです。未来を明るくしていくのも私たち一人一人の思いと行動だと思います。いっしょに頑張りましょう!

執筆者プロフィール

小野正恵(おの まさえ)

医師。
東京逓信病院で39年間小児科診療を行ってきた中で、ダウン症のお子さんの診療に力を入れることとなった。ダウン外来を開き、早期療育のひとつである「ダウン症児の赤ちゃん体操」を導入し好評を得ていたが、思春期、さらには成人以降を含めた人生を一貫してサポートする医療体制が乏しいことを実感した。
総合病院の強みを活かし、全科の協力を得ることとして、2018年10月に「東京ダウンセンター」を院内に発足させた。現在ではダウン症のある0歳から60歳代までの方、1,000人以上が通院されている。2021年3月の定年退職後も非常勤としてダウン症の方に特化した診療を続け、各種学会において包括的診療・支援の必要性を発信している。

【資格】
小児科専門医、小児科臨床研修指導医、臨床遺伝専門医・指導医

【賞罰】
平成23年度 厚生労働大臣表彰

【論文】(2020年度 ダウン関連 日本語のみ)
1. 小児神経疾患の知識・看護 ダウン症候群(21トリソミー)(解説/特集)
小野 正恵、 こどもと家族のケア 15巻5号 Page20-25(2020.12)
2. 【ダウン症児の育ちと生活】ダウン症のある子ども(解説/特集)
小野 正恵 チャイルド ヘルス (1344-3151)23巻7号 Page478-481(2020.07)
3. クリニカルガイド小児科 専門医の診断・治療 南山堂 編集 水口雅、山形崇倫
分担執筆 小野正恵 ダウン症候群 p.360―366 2021.3 ISBN978-4-525-28861-7

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