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発達障害・ASDからくる不調にフィジカルからアプローチした経験

 ASDのある私は、生まれ持っての体幹の弱さや、生活スタイルによる運動不足などが重なり、心身のあちこちに不調を抱えて困っていました。しかし、あるきっかけから身体の専門家に出会い、フィジカルからのアプローチをすることに。専門家のアドバイスに従いながらセルフケアに励んだところ、着実に心身ともに元気になっていった経験についてお伝えします。

生まれ持った心身のアンバランスからくる不定愁訴

私には慢性的に、あちこちの整形外科的な痛み、頭痛、精神的緊張のコントロールのしづらさなどがありました。発達障害による体幹の弱さや精神的緊張の強さ、あまり外に出ず、どうしても運動不足な生活スタイルになりがちなことが影響していたと思います。

自己流のマッサージやストレッチ、薬などではなかなか思うように改善せず、困っていました。自分の心身のアンバランスは一生治らないのだと、悲観的にもなっていたと思います。

しかし、私はさまざまな専門家と出会い、着実な改善への道をたどっていくことになります。

「筋肉の専門家」との出会い

5年ほど前、急に膝が痛くなりました。鍼灸接骨院で柔道整復師にマッサージしてもらったり、鍼灸師に鍼灸をしてもらったりしましたが、なかなかよくなりません。同じASDのある知人に愚痴ると、リハビリ室のある整形外科に行って、理学療法士(PT)の指導を受けるように勧められました。

友人によると、理学療法士は筋肉の専門家で、動いている最中の身体の機能について診ることのできる、高い専門性を備えた人なのだそうです。

そこで私は整形外科に行って、理学療法士さんと出会うことになりました。

歩いてみせたり、特定の姿勢をとってみせたりするように言われ、そのとおりにすると「蹴り出しのときに重心がこっちにずれて、その影響で足首がこっちにねじれて、結果として膝のこっち側に過剰な負担がかかっている」などと分析してくれるので驚きました。

確かに、動いている最中の身体の機能面について見てくれていて、鍼灸接骨院では言われなかったような細かいことまで教えてくれます。

ちなみに、理学療法士は法律上、医師の指示のもとでないと理学療法を行えません。理学療法と謳った処置を受けられるのは、整形外科などの医療機関で検査・医師の診察・診断・指示を経て「リハビリが必要」となったときのみです。

また大事なこととして、整形外科での保険診療として理学療法を受ける場合、どこかに痛みがあることが前提となり、1ヶ月ごとに医師による診察が必要となります。疾患や病院によって理学療法士に対応してもらえるかどうかも異なるため、事前に病院に確認してみてください。

(どこにも痛みがない場合に理学療法士に対応してもらえる場として、理学療法士のいるボディケアサロンやパーソナルジムがあります。この場合は医師による診察は必要ありませんが、全額自費での自由診療となり、理学療法としてでなくボディケアなどとして受けることになります。)

身体のバグとり

理学療法士さんに指導を受ける中で、理学療法士はまるで身体のSE(システムエンジニア)のようだと思いました。

SEは、プログラムのエラーの原因を突き止めてそこにアプローチし、ひとつひとつ手順を実行し直して確認しては改善を重ねることで、プログラムが正常に動くようにしていきます。これをプログラムのバグとりと言うようですが、理学療法士は「身体のバグとり」をするのだなと感じたのです。

最初に痛みの程度を確認する。そして動きを見て、どこかの筋肉が固まっているとわかったら、そこにマッサージやストレッチを施す。また動きを見て、ここの筋肉が働いていないとわかったら、そこに筋トレを施す。また動きを見て、動きが改善すると共に痛みが軽減していることも確認する ―こんな感じです。

結局、私の膝の痛みの原因は、以下のようなものだと判明しました。

  • アゴのアンバランスからの姿勢不良
  • 精神的緊張による噛み締め
  • PC操作を中心とした運動不足な生活習慣

ここから、私の身体改善計画が動き出します。

始まった、根本原因からのアプローチ

せっせと整形外科に通い、アゴの調整、固まった筋肉のマッサージ、筋トレ指導をしてもらって、家でも筋トレやマッサージに励みました。

続けるうちに、歩き方や姿勢が目に見えて改善し、深い呼吸ができるようになっていきました。膝の痛みがとれるとともに、なんと精神的な緊張もほぐれやすくなるように。頭痛も減っていきました。

自分の身体を自分でどうにもできないと思っていた私は、こうして自信と希望を持つようになりました。

ウォーキングの習慣

正しい姿勢で歩けるようになって数年した2022年、私は九州の南国から、関東以北に引っ越します。日照時間の短い冬を久しぶりに経験した私は、ひどい気分の落ち込みに振り回されるようになりました。薬を増やしても、家でストレッチしてもどうにもなりません。

精神科の主治医に相談したところ、日に当たる時間が短いことと運動不足からくる、冬季うつのような傾向を指摘されました。毎日できるだけ午前中に外に出て歩いて、陽の光を浴びるとともに最小限身体を動かすようにとの指導です。

うつ傾向に対して、太陽の光だけでなく、リズミカルな軽い運動が効果があるとのエビデンスがあるとのことで、ウォーキングはやはり非常に良いということでした。主治医の指導のとおりに毎日午前中にウォーキングするようにしたところ、数日で気分が明るくなり、よく眠れるようになったのでとても驚きました。

筋トレの習慣

やはりフィジカルからのアプローチは精神面に効くのだと実感して、そこから自発的に、少しずついろいろな運動を加えていくようになりました。最初は高齢者がロコモ予防のためにやっているような非常に負荷の軽いスクワットを、毎日必ず朝昼晩に1セットずつ。

最初は足裏がグラついて安定せず、腿にも力が入らなかったのが、2週間ぐらいでどんどん足腰がしっかりしてきました。1ヶ月ほど続けて、もうちょっと強度を上げてもいいなという気持ちになったところで、1日に必ず1回、マンションの階段を上り下りすることに。

5階分以上の階段を上るのはそれなりの負荷で、途中できつくなってきて、終えたあとしばらくゼイゼイします。でも、そのあと気分がすごくさっぱりしていることに気づきました。ある程度の強度の運動はストレスを発散させるのだと実感したのです。

それで、家にいて気分がクサクサしてきたなとか、頭を使いすぎて疲れたなというときに、少しゼイゼイするぐらいスクワットするという対策を思いつきました。

やったあと気分がさっぱりするだけでなく、日頃の動きも軽くて安定している。信号を渡るときにちょっと走るぐらいでは息も上がらなくなって、なんというか生物としての自信がつきました笑

私はたまにタイピングのしすぎで腕が痛くなるのですが、これまでの経験から、関連のインナーマッスルが衰えているのも大きいだろうとあたりをつけ、フィットネス用のゴムバンドを使って腕・肩・背中のインナーマッスルの筋トレをするようにしたところ、あっという間に改善しました。腕の痛みやコリがとれるだけでなく、首や肩のこりも出づらくなり、ストレスが発散されるのもわかります。

身体にアプローチすることの大切さ

以上のようにいろいろな運動習慣が身について思うのは、毎日最低限必ず身体を使うことは心身の健康にとって本当に大事だということです。

精神的なストレスがストレッチや筋トレ、ウォーキングで抜けるのは実感しましたし、体力をつけておくことは将来の健康のためにもとても大事なことです。

ともかく続けることも、とても大事

今回私が運動を習慣化できているのは、すごくハードルの低いことから始めたからだと思います。いきなり、健康な人向けのフィットネス雑誌に書かれているようなことを試すのではなく、「自分の日頃の極端な運動不足や低体力を思うと高齢者向けのロコモ予防運動程度が妥当だ」と判断したのは正しかったようです。

チャレンジする運動がちょっと物足りないぐらいのもので、結果として毎日気軽に続けられる。それぐらいのハードルから試してみて、ともかく続けることを最優先にするのが良いと思います。

急がなくても、専門家の指導を受けるなどして的確な運動を毎日続ければ、着実に身体は変わっていきます。私の場合、正しい姿勢での運動を習慣化してからは、たった2ヶ月ぐらいで見違えるように体力がつき、アクティブな心身を手に入れられました。30年来のヘロヘロな身体も、このように変えることは可能だったのです。

心身は的確なアプローチをすれば変わります。ときには専門家の力を借り、急がず焦らず、希望を持って身体へのアプローチを行い、着実に心身ともに元気になっていきましょう。

 

執筆者プロフィール

宇樹義子(そらき よしこ)

1980年生まれ。早稲田大学卒。ASD、複雑性PTSD。
2015年に発達障害当事者としての活動を始める。LITALICO発達ナビなどで連載開始。 2024年、日本語教師としても活動を開始。複数メディアで活動を続けながら、次の発信を模索中。
現在、発達支援×日本語支援の分野に興味津々。

【著書】
#発達系女子 の明るい人生計画
―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました

80年生まれ、佐藤愛 ―女の人生、ある発達障害者の場合

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