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パニックの原因は新しいお父さん?

私の「障害児連れ再婚」について、子供たちの受け止めかたや、新しいパパと自閉症の息子との関係などを、以前のコラムでお伝えしました。特に問題が起きることなく、スムーズに滑り出したかに見えた「細川家」の新生活でしたが、2年を過ぎたころ一転、ピンチが訪れます。

息子が突然、荒れ始めたのです。

悩める母子を前に、血の繋がっていない父が取った行動とは?今はハッピーな細川家の物語に、よろしければまたお付き合いください。

突然の息子の変異

私が夫と再婚し、夫が私の家に入る形で同居を始めたのは、特別支援学級に通う息子が中学2年になる春休みのこと。13歳といえば多感な時期ですが、私から見てまだまだ幼く無邪気な息子は、何の躊躇もなく新しいパパにすぐなついてくれたように見えました。ふたりで一緒にお風呂に入ることもありましたし、息子から誘って夫とふたり「男旅」と称してドライブに行くこともよくありました。「細川姓」もすんなり受け入れ、苗字のことで学校で不愉快な思いをしたという話も、どこからも聞こえてきませんでした。

そんな息子は中学を卒業後、特別支援学校高等部へ進みます。入学直後は自らクラス委員に手をあげるほど積極的で、微笑ましく思っていたのですが……

私が異変に気づいたのはその年の6月でした。チックが増えたと思っていたら、パニックを起こして暴れることが急激に増えてきたのです。自分で自分を傷つけたり、家の壁やガラス・家電など物を壊してしまうこともありました。

新しいお父さんが原因では?

学校でも授業中に突然奇声を発したり、机をたたいて大きな音を立てたり、他害行為までするようになってしまった息子。それまでの穏やかな息子からの激変に先生方も驚き、私との懇談の機会が増えました。

まずは当然、こうなってしまった原因を探ることになります。「何か変わったことはありませんか? ご家族との関係は?」

そんな聞き取りへの回答のひとつとして、私が再婚し、息子とも同居が始まったことを伝えました。

学校からは予想通り、息子のパニックの原因として、夫の存在と環境の変化を指摘されました。そう考えるのは当然のことと思います。私が先生の立場であれば、同じ発想をするでしょう。

環境が変わって2年。「息子さんの中に静かに蓄積されてきた疲れが、今爆発したのでは?」「お母さんを取られたという気持ちでいるのでは?」 

—こうした学校からの声に「そうではない気がする」という、これまで息子の気持ちにアンテナを張ってきた母としての感覚を抱きながらも、毅然と「NO」と言えない自分がいました。

 

夫と別居してみることに

学校との懇談の内容は、逐一、夫にも話していました。もちろん疑い(?)をかけられていることも。きっとおもしろくない気持ちでいたでしょう。夫だって、血の繋がらないちょっと変わった子との生活に、気を遣ってきた一面はあるのですから。にもかかわらず、夫のほうから「ちょっと離れて生活してみるか」と提案がありました。「本当に俺がいるからか、やってみないと分らないだろう」というわけです。

こうして、一時的に別居し、元のように生活してみることになりました。息子の手前「長期出張」ということにして、夫は同じ市内にある自分の子の住む家から仕事に通います。学校にもこの試みを報告。「そこまでしていただかなくても…」という反応でしたが、夫はすでに「この際、はっきりさせよう」という気構えです。

果たしてこれで息子が好転してくれるのか、検証が始まりました。

息子に好転する様子はない

夫と「長期出張作戦」という名の別居を始めて6カ月。夫が連休などのタイミングでときどき帰省する以外は、息子の生活環境を私の再婚前と同じにし続けてきました。けれど、息子のパニックの頻度も強さも、特に変化はみられませんでした。

会わない間も息子は夫のことを話題にし「元気かなぁ」と言っていたし、不穏になったときの訴えは「昔いじめてきた○○くんが許せない」など、小・中学生時代のつらい経験からくるもので、これは再婚前・再婚後・現在も変わりません。⁡⁡学校でも、相変わらずパニックは突然やってくるし、みんなと同じ行動がとれないとのこと。新しい父のいる環境が、息子に直接悪影響を与えているわけではなさそうだということは、先生方とも共有することができました。

⁡別居はこれにて解消。夫が戻ってからも、息子はいままで通り仲良く夫と接しています。学校が、息子のパニックと夫の存在の因果関係を持ち出すことはなくなりました。

正解は誰にも分らない

その後、学校と話し合いを進める中で、息子をここまで追い込んだもののひとつが「過去に受けたいじめ(と本人が受け止めている出来事)によるトラウマ」であろうとの見方に着地しました。思い出すことで、不穏が襲ってくるのです。

ではどうすればいいのか。これは、実際のところ分りません。学校ではとことんストレスを排除した個別対応をしてくださり、息子は通院もはじめて服薬を開始しました。本人も家族も、学校も医者も、答えの分らないものに日々向き合って試行錯誤しています。

ここを工夫すればよいのでは、という仮説をもとに、実行してみる。100人いれば100人に違う特性がある中、きっとこうして、息子に合った対応を模索していくしかないのでしょう。今回の別居は、数えきれないほどしてきた模索のうちのひとつだったというわけです。

困難のある子供を支えていこうとするとき、家族には相当のエネルギーが必要になります。眉をひそめたくなるような問題行動の裏には本人や家族の苦労があり、模索がある。そのことを周囲のみなさま方には、どうかご理解いただきたいです。

執筆者プロフィール

細川 有美子(ほそかわ ゆみこ)

1968年生まれ、福島県在住。
バックパッカーとして海外旅行中に出会ったエジプト人と2000年に結婚。現地で子供2人を出産する。2003年子供と帰国したのち、息子の発達障害が判明。夫とは2005年に離婚。
これまでに自閉症(中等度発達遅滞)・ADHD・精神障害・難病(クローン病)の診断を受けた息子の子育てと現在を、Instagramで発信。
2014年より取材・執筆活動を開始し、現在は事業所でのパート勤務、再婚の夫とふたりで米づくりにも奮闘している。
◇たきちゃん農場 https://www.takirice.com/
◇Instagram https://www.instagram.com/yumiko_days

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