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子どもに伝わる視覚支援(実践編)

前回の記事は、子どもに伝わる視覚支援「準備編」でした。今回は実践編です。視覚支援のグッズが出来上がると、達成感で満足しがちですが、見せ方や声のかけ方にもお子さんの行動を引き出すコツがあります。具体例や注意点を見ていきましょう。

視覚支援の方法と進め方

視覚支援と一言でいっても、絵や数字のカード、行程表、スケジュール、チェック表、付箋などいろいろな方法や進め方があります。シンプルな行動を促したい時には絵カード、身支度や行動を促したい時には数字や行程表など、お子さんの課題や発達に合わせて選択しましょう。

視覚支援の方法と進め方①絵(写真)・数字カード

幼児さんには絵や数字カードなど、シンプルなものがオススメです。例えば、コップを持ってきてほしい時には、コップの写真やイラストを見せて「コップちょうだい」「コップ持ってきて」などの声かけで、行動を促すことができます。

自己選択が苦手なお子さんは、「遊ぶ」ことが難しい場合もあります。自宅や園などの自由遊びの時間で、固まってしまったり、困った行動をしてしまったり。そのようなお子さんには、おもちゃの写真を2つ見せて「どっちで遊ぶ?」と選ばせることで選択の練習ができるようになります。(この場合、お子さんが好きな遊びを必ずいれましょう)

さらに、「マッチング」という視点で考えると、お片付けや準備などにも活用できます。例えば、
・おもちゃの定位置を決めて、その上に置くおもちゃの写真を貼る
・引き出しに、Tシャツやパンツ、靴下などのイラストを貼る
・園バッグの近くに、中に自分で入れるもののイラストを置く
・着替えの洋服に、1,2、3の数字を置く
・玄関に、お子さんの靴と同じサイズの写真を置いておく など

お子さんによっては、声かけがなくても絵や写真、数字を見ただけで行動に移すことができるかもしれません。お子さんができそうなことからはじめてみてください。

視覚支援の方法と進め方②行程表・スケジュール表

行程表やスケジュール表は、療育センターや学校で見ることが多いですね。どの順番で、何をするのか?今日は何をするのか?などを視覚的に提示したものです。

発達障害やグレーゾーンのお子さんは、はじめてのことや目に見えないものを想像することが苦手。何をどんな順番ですればいいのか考えることが難しいため、やればできることもチャレンジすらできないことが多いですが、行程表やスケジュールがあれば、落ち着いて取り組める場合もあります。

また、時間割を見ても自分で準備ができないお子さんはいませんか?「見れば分かるのにどうしてできないの?」と思うこともあるかもしれませんが、特性が関わってつまずいていることも。毎日のことなので、声かけをするのもエネルギーがいりますよね。そんな時は、教科書とノートと時間割表に書かれている教科を同じ色で囲んだり、分かりやすい印をつけたりしてグループ化をすることで、「探す」ことや「読む」ことが苦手なお子さんへのサポートになります。

視覚支援の方法と進め方③チェック表

チェック表は、先生の話を聞き逃してしまったり、文字を書くことが苦手だったりするお子さんにオススメです。

例えば、連絡帳をチェック表形式に編集してあげるのもおススメです。具体的には連絡帳にあらかじめ書く頻度の高い持ち物の名前を書いてプリントアウトしておきます。これなら必要なものに丸をつける、イレギュラーなものだけ記入するなど、カンタンにチェックできるので、書きもれが減り、忘れ物防止にもつながります。

話を聞き逃してしまうお子さんや連絡帳を書かないお子さんは、集中力がない、怠けている、と思われてしまうこともありますが、聴覚過敏や学習障害が隠れている場合もあります。怒られたら怒られた分だけ、ほめられたらほめられた分だけ、否定感も肯定感も子どもには積み重なっていきます。「時間割」「明日の準備」という言葉に拒否反応がでないようなサポートができると良いですね。

視覚支援の注意点

お子さんにぴったり合った視覚支援ができると、急に成長を感じられるようになります。
親として、子どもの成長や能力を引き出せたような気がしてとてもうれしくなりますが、視覚支援には注意点もあります。

視覚支援の注意点①提示の仕方

視覚支援を実践する際、最初のハードルとして「視覚支援に注目させる」ということが大きなポイントになります。そのためには、お子さんの正面から提示することも大切です。

過集中や感覚過敏のあるお子さんにとって、後ろや横、斜めなど、お子さんの視界に入らないところから声をかけられると、気付けなかったり、聞き取れなかったりするのです。
発達障害やグレーゾーンのお子さんは、視野が狭いこともありますよね。

例えば、お子さんの前からコップの絵カードを見せて、お子さんが絵を見たところで「コップ持ってきて」と一言伝えましょう。

指示通りに行動できないからと言って、何度も繰り返すのはNGです。お子さんのタイミングを見ながら、再度チャレンジしましょう。

視覚支援の注意点②声かけを減らす

次に、「声かけを減らす」ということを意識しましょう。今まで声かけだけで指示をだしてきた場合、「声かけを減らす」というのはなかなか難しいと思います。

でも、「声かけ」と「視覚支援」が重複してしまうと、お子さんにとって刺激過多、情報過多になってしまい、結果的にどちらにも注目できないという結果を招いてしまいます。

視覚支援の注意点③提示場所・置き場所

「注意点①提示の仕方」に通じることでもありますが、「場所」にも検討が必要です。わが家の例ですが、息子は入浴時、髪の毛を洗うことを忘れることが多々ありました。

はじめの頃は、息子がお風呂に入るタイミングで「髪の毛洗ってね~」と声をかけていましたが、お風呂上りの髪の毛を見ると、明らかに洗えていません。「もう一度、洗ってきて」と、洗い直しをさせることもありました。

でも、この洗い直し・やり直しは、子どもにとって「またできなかった」「また失敗した」という積み重ねになってしまうため、良くありません。

この問題はお風呂場で起きていることなので、お風呂場に洗う順番と箇所を示したイラストを設置したことで成功につながりました。

発達障害やグレーゾーンのお子さんの中には、指示をすぐに忘れてしまう子、ほかに注意が移りやすい子がいます。他の場所で繰り返し声をかけても、視覚支援グッズを見せても、お風呂場に入ったら別のことを考えてすっかり忘れてしまうことも少なくありません。問題が起きている場所に視覚支援をして、お子さんが気付いて行動できるようにしましょう。

視覚支援の注意点④「強化」を忘れない

視覚支援によって、お子さんが自発的に行動できるようになると、忘れてしまうのが「強化」です。

「強化」とは、行動できたことをほめる、承認する、などのリアクションを与えることだとイメージしてください。今までお子さんができなかったことが成功した時、指示通りにスムーズに行動できた時、親としてうれしい気持ちになりますが、周りのお友達と比べて自分の子だけができていないと「うれしい」よりも、「できて当たり前」「やっとできたか・・・」という気持ちになってしまうかもしれません。

このような気持ちがあるとほめることってなかなか難しいですが、子どもの好ましい言動も好ましくない言動も、定着には周りのリアクションが関わっていることを覚えておきましょう。

視覚支援の注意点➄できるようになったら無くす

発達障害やグレーゾーンの子どもにとって、視覚支援はとても分かりやすく、行動を引き出す指示になります。今までできなかったことができるようになったり、スムーズに切り替えができるようになったり、便利だと感じることがあるでしょう。嫌がらず、癇癪やパニックも起こさず行動してくれたら、親としてもうれしいですよね。

ただ、行動が定着したなぁと感じた時には、視覚支援を無くすことや指示の数を減らすなどの調整が必要です。なぜなら、視覚支援によって、こういう順番でできるようになったから、この順番でしかやりたくない!と、こだわりになってしまう場合があるからです。
視覚支援にはまりすぎて、そこから抜け出すことが難しくなってしまうのです。

視覚支援は子どもの心の安定にもつながる

お子さんにとって、視覚支援は見通しになり、心の安心や安定にもつながります。特に、努力が足りない、切り替えが難しい、不安が大きいと感じるお子さんには、ぜひ試してみてくださいね。

 

 

執筆者プロフィール

浜田悦子(はまだ えつこ)

発達障害・グレーゾーン専門
子どもとママのための家庭療育アドバイザー

繰り返す問題行動に怒られてばかりの子どもと 孤独な子育てに苦しんでいるママに寄り添い、 子どもの自己肯定感とママの子育ての自信を取り戻し 笑顔に導く家庭療育アドバイザー。
自身の子どもが発達障害と診断されたことをきっかけに、発達支援センターの指導員へ。以来、約2,000人以上の親子に関わる。
大学、発達支援センター、放課後等デイサービスでの講演・研修多数。

【著書】
『発達障害&グレーゾーンの子どもを「急かさず」「怒らず」成長を引き出す言葉かけ 』浜田悦子 (著), 汐見稔幸 (監修) 実務教育出版

【執筆・監修】
ユーキャン 子ども発達障がい支援アドバイザー講座
ユーキャン 思春期発達障がい支援アドバイザー講座

【メディア掲載】
毎日新聞、中日新聞、朝日新聞、ひよこクラブ、朝日新聞 WEEKLY AERAなど

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