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親権を利用した任意後見契約について私の考え

「親なきあと」相談室の渡部伸です。ここ数年、障害のある未成年の方の親御さんから、親権を利用した任意後見契約に関連する下記のような相談をたびたび受けています。この件について、私の考えをお伝えしたいと思います。

子どもが未成年のうちに任意後見契約を結ぶべき?<相談>

例えばこんな相談です。※私が「?」と内容の真偽に疑問に感じた部分を太字にしています。 

*相談
「息子は知的障害のある高等部1年生。成人年齢が18歳となり、あと2年で親権がなくなります。『子どもが成人になったあとに成年後見制度を利用することになると、親や家族は後見人になれるとは限らず、家庭裁判所がまったく面識のない専門家を後見人に指名する可能性が高い。そこで、親権があるうちに親が任意後見契約を結んでおけば、勝手に後見人を就けられることはないし、将来自分が任意後見人になれる』という話を聞きました。教えてくれたママ友によると、この制度を紹介してくれた事業者から、今のうちにやっておかないと大変なことになると言われたそうです。ただ、この事業者に契約書の作成などを依頼すると、関連する書類の作成とセットで数十万円の請求が来るということです。この任意後見契約は結んでおいた方がいいのでしょうか?」

 

なぜ必要なのか、本当に必要なのかをしっかり考えましょう<アドバイス>

こういった相談につきましては、私は基本的には親御さんに判断をおまかせしています。

任意後見制度は「本人の意思を尊重」する制度なので、たとえ親権があるにせよ、本人の意思を確認せずに契約する行為は制度の趣旨に反するのではないか、あるいは、本人の将来をすべて親が決めていいのか、といった問題点を、弁護士など多くの専門家は指摘しています。とはいえ、そういった問題点を理解されたうえでのご希望であれば、制度として認められている以上、あとは親御さんで判断されればいいと思っています。

ただ、なぜこの契約をするのか、その必要性はあるのか、一度考えてみてほしいのです。ここから先は、私の考えの背景となる事実関係中心に述べていきます。専門用語や数字が多く、少し読みにくくなってしまいますが、客観的な判断のためにぜひお読みいただければと思います。

親族が成年後見人になることは高い確率で認められる

まず、法定後見だと親や家族が後見人になれない可能性が高いという話ですが、その情報は正しくありません。確かに、現在後見人に就任しているのは、約8割が弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職で、家族や親族は2割弱です。この数字だけを見れば、家族は後見人になれないと言われると信じてしまうかもしれません。しかし、実態はそうではないのです。

以前のコラム でご紹介したことがありますが、親族はかなり高い確率で成年後見人になることが認められています。新しいデータで、再度このことを確認してみましょう。

最高裁判所の家庭局というところが出している、『成年後見事件の概況―令和5年1月~12月』(※)というデータがあります。ここにある「成年後見人等と本人の関係について」によると、親族が後見人として選任された数は7,381件となっています。この年の後見人全体の件数は38,002件なので、割合でいくと約19.4%です。

ここに、参考資料として「成年後見人等の候補者について」というデータもあります。成年後見の申立ての際には、後見人を誰にしたいかという候補者名を書くことができるのですが、この年に親族を候補者として申請したものは全体の22.0%、親族の候補者の記載がなかったものは全体の78.0%となっています。そもそも後見の申立ての時に、多くの人が親族を後見人の候補者に設定していないという実情があることがわかります。

令和5年の後見申立ての全体件数の22%は、約8,360件になります。これが親族を成年後見人の候補者として申し立てた数です。先ほどの、親族が後見人に選ばれたという7,381件と比べると、7,381/8,360=約88.3%。つまり親族を後見人として申し立てた場合、9割近くはそのまま認められているという結果になるのです。

認められていない残りの約11%について、その理由の記載はありませんが、以下のような事情が考えられます。

  • 後見人の候補者が高齢である場合
  • 本人である被後見人に現金、不動産、株式など多岐にわたる財産がある場合
  • 申立人以外の親族の同意書がないため、親族間でトラブルが起きると予想される場合

逆に上記のようなことがなければ、親族後見人が認められる可能性は非常に高いと考えていいと思います。

(※)最高裁判所ホームーページの『成年後見事件の概況』うち「令和5年1月~12月」のファイルを参照しました。

今後スポット的な成年後見制度の利用が認められる見通し

また、法定後見については現在見直しの議論がされており、相続手続きや不動産の売却、施設契約など、本人だけでは難しい手続きの際には後見人が就任し、それが終われば辞任して、その後は日常生活自立支援事業などで本人を支える、といったことが検討されています。現在未成年のお子さんに後見制度を検討する頃には、このように変更されている可能性が高いと思います。

正しい情報を知ったうえでの判断を!<まとめ>

親権による任意後見契約は、成人前の今しかできない取り組みですし、事業者側は時間がないと急かしてくるかもしれません。やはり将来の安心のために契約をしたいんだということであればそのご判断を尊重しますが、数十万円という決して安くない費用がかかりますので、様々な方向から正しい情報を集めてお子さんやご自身にとっての必要性を吟味したうえで、冷静に判断されることをおすすめします。

 

執筆者プロフィール

渡部伸

1961年生、福島県会津若松市出身
「親なきあと」相談室主宰
東京都社会保険労務士会所属。
東京都行政書士会世田谷支部所属。
2級ファイナンシャルプランニング技能士。
世田谷区区民成年後見人養成研修終了。
世田谷区手をつなぐ親の会会長。

主な著書
障害のある子の「親なきあと」~「親あるあいだ」の準備
障害のある子の住まいと暮らし
        (ともに主婦の友社)
まんがと図解でわかる障害のある子の将来のお金と生活(自由国民社)
障害のある子が安心して暮らすために~知っておきたいお金・福祉・くらしの仕組みと制度(合同出版)

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