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知的障害・自閉症のある方の病院での問題行動と合理的な配慮

2021.09.21

診察時の困難さ

知的障害や自閉症の人が病院を受診するときには様々な困難が発生することがあります。

待合室で待てない、診察室に入らない、落ち着かない、動き回る、いすに座らない、指示に従えないなどの状況が生じてしまう。

 

さらには、暴れる、物をこわす、人をたたく、大声・奇声を出す、パニックになるなどのいわゆる「問題行動」が起こることもあります。逆に、医師・歯科医師の側から見ると、訴えがわからない上に触らせてくれないので診察ができない、検査もできないので途方に暮れてしまうことになります。

 

「パニックになったらどう対応したらよいでしょうか」との質問をされることがありますが、これは、野球の試合に例えるなら、「10対0で負けているがどうやったら逆転できるか」というようなもので、時すでに遅しです。

 

どうしても医療行為が必要なら、拘束して無理やり行うことになりますし、緊急性が低いなら一旦中止することになります。困難な状況になることが予想されるなら、事前にできるだけ対策を考えることが大切です。

問題行動と氷山モデル 

障害のある患者が暴れるのは家族や医療者から見ると困った行動ですが、本人の立場から見ると何かが嫌であったり、不安が大きかったり、混乱してとても困っている状態と推定されます。

病院に限らず、いわゆる問題行動を起こす場合は、それなりに何らかの原因や理由があるはずです。

 

自閉症支援システムとして有名なTEACCHプログラムでは、氷山モデルとして説明されています。

 

【言葉の説明】TEACCHプログラムの氷山モデルとは?

氷山は見えている部分よりも水面下の方がずっと大きい。困った行動の水面下には、周囲の環境に起因した大きな問題点があります。
家族や医療者側は表面上の行動のみにとらわれず、水面下にあり原因となっている具体的な課題を知ろうとすることが第一歩です。障害が重い人の場合、水面下に何があるのかすべてわかるわけではないですが、仮説を立てて対策を考えて実行するという考え方です。

 

そのような配慮の積み重ねが実を結ぶことにつながります。

 

知的障害や自閉症の合理的な配慮 

車いすマークが障害者全体のシンボルになっているように、肢体不自由の人にとっての困難さとバリアフリー策(すなわち合理的な配慮)は一般市民にもかなり承認実践されてきました。

知的障害や自閉症に関してはまだまだの感がありますが、不十分とはいえそれなりに配慮は存在します。一例をあげると、診療行為の内容やどれくらいで終わるのかを予め言葉や画像でわかるように伝える、検査室を見学しておいて安心できる環境を整備する、聴診器やエコーなどの診療器具の感触に慣れておく等です。

何事もなくすんなりと診察や検査ができることもありますが、そこにもそれなりの理由があるはずです。障害のある本人がなされるがままに何でもやらせてくれるタイプの人という場合もありますが、無意識のうちに周囲の環境が整備され、的確な配慮がなされている場合もあります。

 

かかりつけの病院で医師や検査がわかっている、家族や支援員と一緒で心強い、一緒に受診した施設の仲間が見本を示してくれる、医師や看護師が優しい態度でゆっくり説明してくれる等、知らないうちに合理的な配慮になっていることがあります。

困難さの内容と程度は一人一人の障害者によって違いますし、可能な対策は病院の体制や都合によって違います。

 

時間的余裕がある場合は、対象となる障害者の特徴と実施する医療行為について、病院内の関係者(医師、看護師、検査技師等)と、本人、家族、教師、施設職員などが集まって検討してみるとよいと思います。何が困難なのか問題点を列挙し、その対策と限界、実行可能な代替策、許容できる目標を検討しておく。

 

それが、本人がパニックにならず、少しでも無理なく自発的に診療を受けるための一番の戦略です。

執筆者プロフィール

大屋滋(おおや しげる)

医師。総合病院国保旭中央病院 脳神経外科主任部長。千葉県自閉症協会会長。特定非営利活動法人あおぞら理事長。
NPO法人あおぞらは「障害のある人が、自らの権利が侵されることなく自分の意思に基づいて、その人らしく地域で暮らす」という理念を実現するため、利用者とその家族が必要とする福祉サービスを提供している。

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