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「障害」「障がい」の表記についてー「社会モデル」という考え方から

「障害」「障がい」「障碍」…メディアや自治体によってどの表記を使用するか、判断が分かれています。少し前にも佐賀県伊万里市で、市が作る文書等では「障がい」に改めるという報道がありました。

記者会見の席で市長は「害という字には悪いイメージがあり、人に当てはめるのは適切ではないと思う。社会の意識を変えるためにも、ひらがな表記にすべきと判断した」と発言されたとのことです。

■「社会モデル」という重要な考え方

 

私は以前から「障がい」という表記は使っていません。いちばん大きな理由は、「障害」の文字面だけ変えても差別意識がなくなるわけではなく、逆にこのような書き換えに不快感を覚える人もいるので、法律上使用されている「障害」を使うのがベターだと考えているからです。

もちろん不快に思う人の気持ちを否定はしませんが、言葉の書き換えにこだわることには違和感を持っています。

もう一つの理由として、「社会モデル」という考え方があります。

以前は、「医療モデル」という考え方が支配的でした。これは個人モデルとも呼ばれ、障害者の社会的な不利は個人の問題であるから、それを克服するために、医療やリハビリなどを施し、周囲が援助してあげましょう、というものです。

この「医療モデル」という考え方だと、障害による生活のしにくさは、あくまで障害者個人に起因するもので、障害者が健常者の基準に合わせていろいろな不利を乗り越えなければならないことになります。そうなると、社会にある障害者の生きにくい仕組みは、何も変える必要がないということになります。

それに対して、現在一般的になってきた「社会モデル」は、社会の仕組みに不備があるためにハンディキャップを生み出している、という考え方です。この立場に立てば、社会のほうが変わらなくてはいけない、ということになります。

つまり、社会の側に整備されていない部分や理解が足りない面があり、そのために不利な状態にあるのが「障害」である、ということです。冒頭の伊万里市長は、障害者に配慮してこの決定をされたと思うので、それ自体は大変ありがたいことです。しかし「害という字を人に当てはめている」のではなく「社会が障害を生み出している」のです。

■「障害」のある社会を変えていくことが大切

 

障害が個人の中にあるものではなく、社会との関係性の中にあるものであるならば、なぜ「障がい」と書き換えをしなくてはいけないのか、ということになります。「社会モデル」という考え方に共感している私としては、「障がい者」という表記を使うことは考えていません。

もちろんすべてを「社会モデル」に当てはめて、社会を変えれば何でも問題が解決するというものではありません。しかし、これまで個人にすべてを帰結させてきた障害による不利益を、社会の問題という別な側面から見ることによって、必要な施策を行うということにつながっていくのではないかと思います。

これはすべての自治体の方にお願いしたいことですが、「表記を改めるのではなく、行政として社会にある障害をなくしていく」という発信をしていただきたいと切に希望します。

ただし、「障害」の表記に拒否反応や嫌悪感を抱く方もいらっしゃいます。そのお気持ちもわかるので、「障がい」の表記はダメだ! などと言うつもりは全くありません。

ただ、「障害」の表記にはこの「社会モデル」という考え方があること、障害者の生きにくさを生み出している社会そのものが、変わっていく必要があることは、知っていただきたいと思います。

■障害と社会を考えるきっかけに

 

今年に入ってぜんち共済では、「障害」「障害者」に表記を統一すると発表されました。理由としては音声ブラウザー等で「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまうことがあるということでしたが、「障害は人ではなく社会にある」という考えも表明されているので、間違いなく「社会モデル」の立場をとられたのだと推察しています。

当たり前ですが文字の表記は問題の本質ではありません。いかに障害者も健常者も、地域で安心して暮らせるようになるか、共生社会が実現できるかが大切なことです。この表記の問題を知ることは、障害と社会の関係性を考えるひとつのきっかけになるかと思い、今回このコラムを書かせていただきました。

 

 

執筆者プロフィール

渡部伸

1961年生、福島県会津若松市出身
「親なきあと」相談室主宰
東京都社会保険労務士会所属。
東京都行政書士会世田谷支部所属。
2級ファイナンシャルプランニング技能士。
世田谷区区民成年後見人養成研修終了。
世田谷区手をつなぐ親の会会長。

主な著書
障害のある子の「親なきあと」~「親あるあいだ」の準備
障害のある子の住まいと暮らし
        (ともに主婦の友社)
まんがと図解でわかる障害のある子の将来のお金と生活(自由国民社)
障害のある子が安心して暮らすために~知っておきたいお金・福祉・くらしの仕組みと制度(合同出版)

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