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てんかんのある子の日常生活 

■はじめに

てんかんという病気は、発作そのものも困るのですが、

てんかん発作が「いつ起こるか分からない」というところにも悩まされます。

てんかん発作がいつ起きる、何しているときに起きる、と分かっていれば、対策を取れることもあるのですが、

多くの場合は予想できないため、薬を飲んで発作が出るのを予防する必要があります。

治療が始まって間もない場合、発作が出る「かもしれない」ことへの不安はしばしば大きく、

患者さんやご家族からは、

「〇〇したらてんかん発作が出ますか?」

「〇〇しても大丈夫ですか?」という質問をよく受けます。

今回のコラムでは、てんかんのある患者さんの日常生活を考える上でのアドバイスをご紹介できればと思います。

*私の場合、薬を飲んで1年以上発作がなければ、日常生活での制限は必要ありません、とお伝えしています。以下は、最近てんかんの薬を飲み始め、1か月くらい発作がない小中学生の患者さんをイメージしています。

■〇〇やっても大丈夫ですか?編

  • プールでの水泳

泳いでいる最中にてんかん発作が起きたら、溺れてしまうのではないか、という相談を受けることは多いです。

ところが、学校のプールで泳いでいる最中に、てんかん発作が起きたがための事故事例は、国内では全くといっていいほどありません。

国外からは、てんかんのある人は溺れるリスクが高いという研究報告はありますが、プールよりも河川や海で泳いでいるときが多いようです。

日本ではバスタブに浸かっているときの事故事例が多く報告されています。日本独特の事情といえるかもしれません。

日本のプールでの事故事例が非常に少ない理由は、ほとんどのプールに監視員の方が配備されていることが考えられます。

以上から、私は「監視員の方がいる環境であれば、プールでの水泳はしてかまわない」とお伝えしています。

  • 宿泊学習

宿泊学習には参加したいけれど、親元を離れたところでてんかん発作が起きたら心配、という相談もしばしば受けます。

特に治療を始めて日が浅い場合などは、私も発作が起きないから大丈夫、とは申し上げにくいです。

しかし、修学旅行といった宿泊学習は、学校生活の大きなイベントですよね。てんかんをハードルとさせないための事前の準備・心づもりのお手伝いができればと思います。

ポイントは、宿泊学習中の生活リズムを整えること、発作が起きた際の対応をあらかじめ決めておくこと、事故の予防、の3点です。

【生活リズムを整えること】

薬の飲み忘れに注意する・夜更かしをしない

【発作が起きたときの対応】

救急要請のタイミングを事前に決めておく・受診できる病院を事前に探しておく・主治医の先生からの紹介状を持参する

【事故の予防】

お風呂に一人で入らない・転落や遭難の危険があるところを避ける

 

  • 運動

「運動はてんかん発作を起こすきっかけになる?」という意味と、

「運動中に発作が起きたら危ないから、控えたほうがいい?」という意味で、尋ねられることがあります。

・運動はてんかん発作を起こすのか?

運動をきっかけとしててんかん発作が出る、ということは分かっていません。反対に、運動はてんかんを起こす脳の活動を抑えるのではないか、という意見を見ることが多いです。

個人的には、運動している最中より、運動を終えて一休みしているときに発作が起きる印象があります。

・運動中に発作が起きたら危ないから、運動は控えた方がいいのか?

可能性が小さいとしても、もし運動中に発作が起きれば、怪我を負うリスクは生じます。

例えばサッカーの試合中にてんかん発作が起きれば、患者さんが転ぶ可能性は高いでしょう。頭をぶつけたり、手や足を怪我したりするかもしれません。

ただし、てんかんがあろうとなかろうと、ある程度の強度の運動をすること自体に怪我・事故のリスクがあるものです。サッカーの試合中の怪我や事故のほとんどは、てんかん発作と無関係に起こっていますよね。

てんかんのある人は、ない人よりも怪我のリスクはほんの少し高いかもしれないけれど、患者さん・ご家族が納得しているなら、ほとんどの運動の制限は不要でしょう。

ここで注意するべきことは、リスクの大きさと、リスクを負うのは誰か、ということです。

サッカーでなく、スキューバダイビングを例としましょう。

スキューバダイビングで潜っている最中にてんかん発作が起きたら、本人の負う危険の大きさはサッカーの比ではありません。発作が起きた患者さんを助けるために周りの人も危険に巻き込むかもしれません。

てんかん発作による事故が重大となる活動、本人のみならず周囲の人に危険をもたらす可能性が大きい活動については、参加を控えるようお伝えすることがあります。

■日常生活で気をつけた方がよいこと編

  • バスタブでの入浴

バスタブに浸かっている最中のてんかん発作に関しては溺れる危険が大きく、注意が必要です。

私は、特に治療により発作が収まったか分からない時期では、小さい子どもであれば一人でお風呂に入れない、一人でお風呂に入れる年齢のお子さんであれば、シャワー浴だけにする、風呂の鍵をかけない、等の対応を伝えます。

お風呂の水位を低くすることには、事故防止の観点ではあまり意味がないとされます。

  • 自転車

日本ではてんかん発作が止まっていない患者さんは、運転免許の取得に制限があるため、自動車を運転することができません。

自転車の運転には運転免許が必要ないので、てんかん発作が止まっていないからといって法律上の制限はありません。

しかし、自転車の運転中にてんかん発作が起きた場合、車とぶつかれば大変危険ですし、歩行者とぶつかれば怪我させてしまうかもしれません。

患者さんのてんかん発作のタイプにもよりますが、私はてんかん発作が止まったか分からない時期の患者さんに対しては、一定期間、公道で自転車に乗らないよう指導しています。

執筆者プロフィール

馬場信平(ばば しんぺい)

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 小児神経科医師。
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。
2007年東京医科歯科大学卒。
東京医科歯科大学小児科、聖隷浜松病院てんかんセンター等で研鑽を積み、
2021年4月から現職。
てんかんをはじめとした小児期発症の神経疾患の診療、臨床研究に取り組んでいる。

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター:https://www.ncnp.go.jp

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