fbpx

障害のある子の就学問題(我が家の場合)

障害のある子が小学校へ上がる時、または、中学校、高等学校へ進学する時、我が子に合った教育が受けられるのはどこなのかということに、多くの保護者は頭を悩ませます。学校へ見学に行き、子どもを通学させている保護者に話を聞いた上で、やっとの思いで入学を決めます。それでも、決断が正しかったのかどうかと、ずっと悩み続けることもあります。

いったん入学したあとに、「やっぱりあっちの学校にします」「いやいや、気が変わったのでまた戻ります」なんてことは、学校現場や子ども自身を混乱させることになるので、よっぽどの事情がない限り、しないに越したことはないのです。

「手を引いて泣きながら帰ったあの日」

 

長女が小学校に上がる時、地域の小学校に入学するか、支援学校の小学部に入学するかという、2つの選択肢がありました。

私はほとんど迷うことなく、地域の小学校に通わせるつもりでいました。というよりも、3歳で療育園から、障害児枠のある一般の保育所に移ったのは、そもそもそのつもりがあってのことでした。

ところが、地域の小学校へ就学相談に出向くと、校長先生から思いも寄らないことを告げられました。

「今、うちの学校の支援学級はいっぱいいっぱいな状況です。定員も、携わる教員や補助員の人数も限られていますから、娘さんに十分なことをしてあげることは難しいでしょう。支援学校に行かれてはどうですか?あちらの先生方はプロですから…」

療育園時代、娘と同じクラスだった、同じくらいの重度の知的障害の子たちは、同じ市内の別の公立小学校に入学することが決まっていました。受け入れ側の姿勢もウェルカムで、入学に向けてあらゆる準備を進めてくれていると聞いていたので、我が子も当然、地域の小学校に入学できるものと信じて疑いませんでした。

だから、そんな風に言われるなんて夢にも思わず、その日私は長女の手を引き、人目もはばからず泣きながら歩いて家に帰りました。

私はその頃どうしても、長女を地域の小学校に入学させたかったのです。

なぜなら長女にとって、ここが“地元”なのですから。この子の家はここにあり、これからも、きっとこの地域で暮らしていくのですから。

いつの日か、この子が1人で出歩けるようになった時に、「知らない子が歩いている」ではなく、「りんちゃん、こんにちは」って、声を掛けて貰えたらいいなと思っていました。地域の住人として認められたいと、願いました。

けれども結果的にその願いはかなわず、その時の私は、まるで娘の存在自体まで否定されたかのように受け取って絶望したのです。もっとも、今のように「インクルーシブ教育」という言葉も概念も、ほとんど認知されていない時代でしたから、そのようなことは、まだまだ珍しくなかったのかもしれません。

「終わり良ければすべて良し」

 

結局娘は小学部1年生から高等部3年生までの12年間、肢体不自由児が通う大阪府立の支援学校に通いました。それでも、居住地域の子どもたちに、長女のことを知ってほしいという思いがあったので、小学生の間だけでしたが、1~2ヵ月に一度のペースで、地域の小学校に連れて行き、体験型の授業などに参加させていただくことを続けました。

そのおかげで、地元の夏祭りなどで長女を連れて歩いていると、どこからともなく「あ!りんちゃんや!」なんて言われているのをよく耳にして、うれしく思ったものでした。

12年間通った支援学校では、本当に良くしていただいたし、長女も頑張ってとても成長したと思います。

「あの時、無理にでも地域の小学校に入学させていたら…?」なんて、思わなくもないのですが、結局どのみち私自身は、後悔はしなかったと思います。

長女が元気で、ニコニコ笑顔で過ごすことができたから。娘の笑顔が答えなんだと思っています。

 

執筆者プロフィール

藤井奈緒

一般社団法人「親なきあと」相談室 関西ネットワーク 代表理事
一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室 理事 兼 アドバイザー

大阪府八尾市在住。八尾市教育委員会 教育委員(2019年12月~)
重度の知的障がい者である長女(21才)と、次女(15才)の母。
『親なきあと』次女一人に、長女の世話を引き受けさせることになるかもしれない状況に危機感を抱き、法的な備えについての勉強を始める。 その後、自分と同じように『親なきあと』を心配している障がい者家族が大勢いる事を知り、2019年に【一般社団法人 親なきあと相談室 関西ネットワーク】を設立。個別相談やセミナーを通して、障がい者の家族が安心して、笑顔で暮らしていくための情報提供を行う。また、2021年には【一般財団法人 お寺と教会の親なきあと相談室】の設立に参加し、一生涯寄り添い続けてくれる存在としての宗教者と、不安を抱える方々への架け橋となる活動を全国展開している。
その他、一般的な『終活』をテーマとした講演活動も行っている。

~講演実績~
・支援学校PTA勉強会 ・障害者団体保護者向け勉強会 ・障害者施設職員研修 ・社会福祉協議会主催講演会 ・東京、関西、京都、その他相続診断士会勉強会  ・浄土真宗本願寺派(京都)・真宗大谷派(京都)・真宗佛光派(京都)・金光教大阪センター他・一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター大阪府支部・自治体主催市民講座・豊中市主催、人権啓発講演会講師 ・大阪府教育センター教員研修講師 その他多数

~メディア実績~【テレビ・新聞・ラジオ・雑誌】
・NHK総合『ニュースほっとかんさい』特集 ・産経新聞・読売新聞・朝日新聞・毎日新聞・京都新聞・文化時報 ・終活読本ソナエ・シニアガイド終活探訪記・毎日新聞医療プレミアム ・FMラジオ大阪、各地の地域FM、KBS京都ラジオ他

この執筆者の記事一覧

関連記事

おすすめの記事

  • コントロールできない!チック症はつらいよ

    「チック症」は「不随意運動」とも呼ばれる、自分の意思と関係なく体が動いてしまう症状です。私の息子には発達障害とチック症の両方があります。 就学前から小学校低学年頃に発症し、青年期には軽くなるといわれる …

  • 本人に障害をどう伝える?いつ伝える?

    子どもが発達障害と診断されたり、グレーゾーンだと言われた経験があると、「障害告知」という言葉が頭に浮かびます。 わたし自身も、保育園に息子を入園させる際、誰に、どこまで、どんな風に、伝えたらいいのか分 …

  • お寺に頼る「親なきあと」

    「あ~すっきりした!」「またね!」  親御さんたちが日ごろの悩みやただの愚痴を思いっきり吐き出して、あっという間に2時間半が過ぎます。大阪・願生寺で行われる「親あるあいだの語らいカフェ」の光景です。終 …

  • 発達障害のある子の偏食の原因と3つの問題

    はじめまして。広島市西部こども療育センターの管理栄養士の藤井葉子です。 私は、療育センターの通園施設や保育園や学校に通っているお子さんの拒食・偏食・肥満などの栄養に関するご相談をお受けしています。読ん …