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発達障害とは?子どもの診療についてお話します

国立成育医療研究センターこころの診療部の黒神経彦と申します。

現在は、学童期の子どもの発達やこころの問題について日々診療を行っています。

困り事へどのように対応するかについては、絶対的な正解はなく、主に、子ども、ご家族ともに一緒に考えていく必要があり、そこが難しくもあり、やりがいがある所なのだと感じています。

病院の役割として、診断を立て、診断に基づいて対応策を考えていくということがあります。ただ、その部分だけではなく、困り事に対して一緒に伴走する中で、微力だとしても、子ども自身の成長を少しでも後押し出来ることがあると良いのではないかと思っています。

今回のコラムでは、まずは、全体としてどのようなことを考えながら診療を行っているかについて、私個人の考えを述べさせていただきます。

もともと、小児科医として、体のケアを中心に行ってきました。

 

振り返ってみると、小児科の診療では、子どもと直接話す機会というのは、私自身は決して多くはなかったというのが率直な思いです。問診は主には保護者の方から聞き取りますし、子どもの気持ちに向き合い、腰を据えてやりとりをすると言うことは、時間的な余裕がなく、しかも難しくもあり、なかなか十分に行えていなかったのではないかと思います。

しかし、子どもの発達やこころの問題に関わるのであれば、当たり前ですが、主役は子どもになります。

診療では、子どもと関係性を築きながら、いかに子ども自身の言葉で語ってもらえるかが重要になります。得られた情報をもとに、「どういう子どもなのか」ということを捉える必要がありますが、必ずしも発達障害の有無にとらわれすぎずに、より包括的な形でとらえられると良いのではないかと思っています。

子どもと向き合い、関わる立場として、まず、子どもを木に見立てたときに、その幹を太く、葉を茂らせるように成長を後押しするためにはどのように日常を過ごしていけると良いのかを考える必要があると思います。

 

日々の生活で、「良い事」「嫌な事」など色々ある中で、子ども自身が「そうはいっても、今日も何か良い日であった」という手ごたえを感じながら日常を送ることが非常に大事なのではないかと思います。

そういった日を重ねることが、子どもの意欲、成長、力強さを後押しすることにつながるのではないかと思います。

そのためには、当たり前のようですが、子どもが家庭で安心して、安全に過ごせるということは非常に大事だと思います。幼少期より、安定した親子関係の中で良好なアタッチメントが形成されることがその後の安定した情緒、人間関係構築の基盤として必要不可欠であることは言うまでもありません。

また、家庭では、誰かが無理をすることなく、「楽しかった」「大変だった」「面白かった」ことなどを情緒的に共有しながら進んでいける関係性があると良いのではないかと思います。

子どもとのやりとりでは丁寧に向き合い応じること、子どもがやりたくないことを頑張ってやった時には、そのことをねぎらいつつ、その分好きな事に取り組むことを保証すること、何か熱中できることに取り組めていること、などは子どもの意欲、日々の満足度を高めることにつながるのではないかと思います。

また、その一方で、子どもの逃げ場がなくなるような、追い詰めるような叱責、関わりは子どもの自己否定につながるため、いずれにしても、避けるべきだと思います。

保育園、幼稚園、学校などの集団生活は日常生活の中でウエイトを占めると思いますが、出来れば前向きに、穏やかな気持ちで参加していくことを目指していけると良いのではないかと思っています。

集団生活に参加する中で、友達といて楽しいという実感や周囲から承認されながら人間関係を広げていく経験をしていくこと、学習だけにとどまらず体験を通じて新しいことを学び、身につけていくことは子どもの強さにつながると思います。

また、集団生活に日々参加するということは、そのことだけでも生活リズムを守るタイムキーパーとしての役割はあるのではないかとも思っています。

発達障害についての診断は不必要なレッテル張りをするということではなく、これまで述べてきたように、「子ども自身が手ごたえのある良い日を送ること」につながるように、また後押しをするために行う意味があるのではないかと思います。

特に、早期に診断を行い、本人の特性に合わせた対応を行うことで、性格の問題として否定的に扱われる機会が減ることや親子関係の悪化を防げることがあります。

また、早期から専門的な関わりや教育が必要だという認識を周囲が持つことで社会性、知性の成長をより促せる可能性もあると思います。

次回のコラムでは、発達障害についての概要、普段の診療での診断のプロセス、治療の考え方などについてお伝えできればと思います。

 

 

 

 

執筆者プロフィール

黒神経彦(くろかみ つねひこ)

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター こころの診療部
小児科専門医、小児神経専門医、子どものこころ専門医
大阪府立北野高校卒。
三重大学医学部医学科卒。
卒後は、東京医科歯科大学小児科に入局し、主に関連病院で、小児神経領域を中心に診療を行う。その中で、発達障害の分野に興味を持ち、2019年4月から現職となる。

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