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「苦手の成分」を分析する。なぜ、何を、どのように苦手なんだろう?

私は少し前、ひょんなきっかけから小・中学校レベルの算数・数学の復習に取り組みました。復習するうちに、自分がなぜ、どのように算数・数学が苦手だったのかに気づくに至り、自分の漠然とした不全感を癒やすことにつながりました。今回はその「苦手の分析」についてお伝えします。

■自分の限界を広げようと挑戦した算数・数学

私は小さい頃から算数・数学がとても苦手。数字や数式を見ると頭にもやがかかって気持ち悪くなってしまうほどの「数学アレルギー」を抱えていました。

コロナ禍を経てライターとしての仕事の方向性に迷ったときに、一度立ち止まって、自分が毛嫌いして手を出してこなかった分野に手を出してみようかと挑戦したのが算数・数学でした。

より詳しく言うと、最初に挑戦したのはプログラミング。Pythonというプログラミング言語を学ぶ過程でなんの補足説明もなく難しそうな数式が出てきて面喰らい、知人のエンジニアに訊いてみるとほんの中学レベルの数学の公式だということだったのです。

中学レベルの公式の記憶が真っ白ではいけないと危機感を覚えたのですが、思い出してみると私は小学校の算数からつまずいていました。それで、開き直って小学校の算数から復習してみることにしたのです。

■数字や数式ではない、私に算数を教えた先生が苦手だった

小学校の算数はさすがに私にも比較的簡単にこなすことができました。30歳を過ぎて受けた知能検査の結果説明で「特に算数障害と思われるような数値は出ていない、数の理解の力は普通程度」と言われたことが自信の下支えとなりました。

でも気づいたことがあります。算数の学習をしていると、頭の中で理不尽な叱責や人格否定の声が響くのです。

それは小学生当時の私に算数を教えた担任教師の声でした。トラウマについての知識が身についている私には、それがフラッシュバック(心の傷になるような記憶の、頭の中を圧倒してしまうような蘇り)だとわかりました。

それまでは曖昧で数字や数式に対してであるように見えていた不快感が、真正面から算数と向き合ってみたことで、トラウマのフラッシュバックだったと気づけたのです。

私は算数が苦手だったのではない、私に算数を教えた先生が苦手だったのです。

■ほかの「苦手の成分」を分析する

あの不快感がフラッシュバックだったと気づいた私は、「暗がりで出会って怯えていたオバケを、昼間に見てみたらただの木だった」みたいな安心感を覚えながら、小学校の算数の復習を終えました。

中学レベルに入っても、学習はあっけないほどにスムーズに進みました。少なくとも、テキストの言っていることがきちんと理解できて自信が持てる。

けれど、練習問題を解いてみるとときどき間違ってしまう。

自分で間違った問題について振り返っていて、私が間違える理由は「単純なケアレスミス」が大半、残りの少しが「練習量の不足」だとよくわかりました。

私は知能検査の結果でも、注意散漫の傾向があって細かい作業を大量に正確にこなすことが苦手だと言われました。そういう注意散漫さがケアレスミスの多さにつながるのでしょう。

私のケアレスミスは、たとえば問題の式をノートに書き写すときに4をなぜか6と書いたり、答えの6を9と書いたり、というような、理解不足ではなく本当に注意が足りずに起こるようなミスでした。

練習量の不足は、たとえばこれはこの公式を使うのだなと理解できても、その公式をきちんと覚えていなくて出てこないといったようなことです。

ここまで理解して、もともと漠然としたまま私を圧倒していた「数学アレルギー」「数学が超苦手」は、以下の3つの成分に分析されました。

・トラウマによるフラッシュバック
・注意散漫傾向によるケアレスミス
・練習量の不足

■分析できれば対処ができる

いったんこうした小さな成分にまで分析できれば、あとは一喜一憂せずにひとつひとつ淡々と対処していけばいいだけです。

・フラッシュバックにはトラウマ治療で対処する。
・ケアレスミスは、とりわけ注意して見直すことで対処する。
・練習不足は、練習を意識して増やす。

上記のようにすることで、私にとって正体のわからないオバケのようだった算数・数学は対処可能なものになりました。

こうして私は、「算数・数学に対処できないダメな自分」という自己評価から脱出することができたのです。

私の場合は苦手なことは算数・数学でしたが、どんな人のどんな苦手も、落ち着いて向き合ってみれば「苦手の成分」をある程度分析できるはずだと思います。医師による診断や知能検査の結果もその分析の役に立つことがあるでしょう。

「ダメな人」なんていないと、私は思っています。その人それぞれの小さな苦手や得意の成分があって、ときどきそれが何かの加減で組み合わさったり塊になったりしてその人に自信を失わせるだけなのだと。

もし、苦手の成分の組み合わせの結果「これはどうしてもできない」「無理してやれたとしても長くは続かない」ということがあれば、悔しいけれど開き直って、それをしなくてよい生き方をすればいいと思うのです。たとえば私が、オフィスに出勤してこなすフルタイムの仕事を諦めたように。

だって、できないものはできないんだもの。それ自体は仕方ない。そして、できないことがあるからといって、誰も「ダメな人」なんかじゃないのです。

あなたにも、機会があったときに自分の「苦手の成分」を分析してみてほしいと思います。

執筆者プロフィール

宇樹義子(そらき よしこ)

1980年生まれ。早稲田大学卒。ASD、複雑性PTSD。
2015年に発達障害当事者としての活動を始める。LITALICO発達ナビなどで連載開始。 2024年、日本語教師としても活動を開始。複数メディアで活動を続けながら、次の発信を模索中。
現在、発達支援×日本語支援の分野に興味津々。

【著書】
#発達系女子 の明るい人生計画
―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました

80年生まれ、佐藤愛 ―女の人生、ある発達障害者の場合

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