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発達障害とは?子どもの診療についてお話します②

今回のコラムでは、発達障害についての概要、普段の診療での診断のプロセス、治療の考え方についてお伝えできればと思います。(前回の記事はこちらをご覧ください。)

 

本邦において、発達障害は2004年12月10日に制定された発達障害者支援法によって「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。

発達障害は、診断名というよりは、いくつもの疾患を包括する概念となっています。

本邦での発達障害の定義には知的能力障害が含まれていませんが、DSM-5の神経発達症群がおおよそ対応する診断カテゴリーだと考えて良いのではないでしょうか。

知的能力障害を除いた主な神経発達症として、自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)、注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder: AD/HD)、限局性学習症(specific learning disorder: SLD)などがあります。

  • ASD

複数の状況において、社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における困難さ、行動興味または活動の限定された反復的な様式が認められます。つまり、人付き合いや集団生活の困難さ、繰り返しや同一性を好む心性、こだわり、感覚の敏感さ・鈍感さ、興味関心の方向性など、幅広い面での特性が様々な程度によって認められます。

  • AD/HD

複数の状況において、発達水準に不相応なレベルでの多動・衝動性および不注意が認められます。幼児期早期だと、発達水準に不相応かどうかの判断は難しく、早くて4、5歳頃からの診断になるのではないかと思います。

抑制系実行機能、遅延報酬、時間処理における障害があるとするtriple pathway modelや脳のdefault mode networkにおける機能異常などの仮説が提唱されています。

  • SLD

全般的知能が正常で、家庭・教育環境や視覚・聴覚などの問題がない中で、読字、書字、読解力や記述、算数の計算、数的推論において習得の困難さが認められる状態を指します。読字の障害を伴うもの、書字表出の困難さを伴うもの、算数の障害を伴うもの、に分類されます。

通常は小学校入学後に困難さが顕在化すると言われています。「読字の障害を伴うもの」がSLDの主要型で、発達性ディスレクシア(developmental dyslexia: DD)とも言われます。

面談では、通常は、子どもとの面接、養育者との面接を行い、困り感について、聴取を行います。

子どもとの面接では、「困っていることがあるかどうか」について聞いても、多くの場合は「困っていない」もしくは「・・・」とうまく答えられないことが多いのではないかと思います。

 

集団生活に関する内容や日常生活の過ごし方などを具体的に聞き、関係性を築きながら、やりとりをしていく中で、どういう子どもなのかということを評価します。

発達障害の有無だけにとらわれず、より広い視点で評価していく必要があります。

養育者との面接では、周産期、既往歴、生育歴、家族歴など、幼少期から今に至るまでの成長の過程を聴取して、必要に応じて内容を具体的に掘り下げながら、受診に至るまでの経過を長期的な時間軸に基づいた視点で捉える必要があります。

面談で得られた情報を総合的に判断した上で、DSM-5の基準で該当する診断があるのかどうか、また、なぜ病院受診に至る困り感が生じているのかという見立てについて考えます。

暫定的に考えた診断の妥当性を追加評価する意味で、各種のチェックリストや心理検査があります。そういった検査はあくまで、診断の補助としての位置付けであり、直接診断をつけるものではありません。

治療は、診断、見立てに基づいて、非常に大まかな表現をすると、環境調整、心理的介入、投薬に分けて、方針を考えます。治療では、多くの場合において、子ども、養育者の思いを尊重しながら、困り感を軽減するための対応を一緒に考えていきます。

環境調整は、子どもの特性に合った環境を整えることを意図するもので、日常生活での特性に配慮した関わり方、集団生活での課題の内容や量の設定、合理的配慮の検討、特別支援教育の利用、家庭への地域と連携をした援助、など多岐にわたりますが、非常に根本的で重要な対応だと考えています。

心理的介入としては、発達特性についての心理教育やガイダンス、養育者へのペアレントトレーニング、子どもへのカウンセリング (プレイセラピー、箱庭療法、認知行動療法など)などを含みます。

子どもの治療の場合は、多くの場合において、こういった心理社会的介入をまず行い、十分な効果が得られない場合に投薬の検討がなされます。内服薬は少量から開始し、治療効果や副作用を慎重に評価しながら、なるべく単剤かつ少量で治療を進めることが求められます。

 

以上、簡単ではありますが、発達障害についての基本的な内容、診療の流れ、治療方針について記載させていただきました。

繰り返しにはなりますが、必ずしも発達障害にとらわれずに「どういう子どもなのか」ということを知ることが重要だと考えています。

子どもがより手ごたえのある日を送り、意欲的に成長できるように、わずかながらでも、援助・後押し出来ればと考えています。

 

執筆者プロフィール

黒神経彦(くろかみ つねひこ)

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター こころの診療部
小児科専門医、小児神経専門医、子どものこころ専門医
大阪府立北野高校卒。
三重大学医学部医学科卒。
卒後は、東京医科歯科大学小児科に入局し、主に関連病院で、小児神経領域を中心に診療を行う。その中で、発達障害の分野に興味を持ち、2019年4月から現職となる。

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