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あなたの隣のASD ―「謝罪」とは何かを考える

2023.09.20

ASDの人の中には、謝罪が求められる場面で人間関係トラブルにつながる言動をしてしまう人がいます。私はこれについて、ASDとASDでない人の間の「謝罪」についての感覚のすれ違いから起きているのではと仮説を立てました。

今回はこの、私が考えた、ASDの人とASDでない人の間の「謝罪」の感覚のすれ違いについてお伝えします。

ASDでない人にとっての「謝罪」とは

私は、ASDでない人との間に無用なトラブルを起こしたくない一心で、一生懸命、ASDでない人の感覚を想像し、彼らの「謝罪」の感覚について以下のような分析をしました。

ASDでない人にとってはたぶん、以下の一連の流れが「謝罪」であり、「申し訳ないと思っているという証明」なのだと思います。

ごめんなさい + 申し訳なさそうな態度(表情・姿勢・声のトーン)

一言二言追加で叱られる + わかったね、もうしないね?

わかりました、もうしません、本当にごめんなさい

よし、もういいよと言われる

ここで初めて申し訳なさそうな態度解除

(場合によっては)直後に調子に乗らない、その後いっさい同じ(に見える)ミスを繰り返さない まで含まれる

ここで大事なのは、「ごめんなさい」という発言をするだけでなく、「申し訳なさそうな態度」をとること、「もういいよ」と言われるまで相手に対して従順に振る舞い、ボディーランゲージも含めて「申し訳なさそうな態度」を解除しないこと、のようです。

最近言語学を学んでよく理解したのですが、ASDでない人にとって、コミュニケーションにおいては、発された言葉そのものよりも、態度やボディーランゲージ、前後の行動も含めた文脈が非常に大事なのですね。ここの感覚が、ASDの人の感覚と大きく違うところだと思います。

ASDにとっての「謝罪」とは

ASDの人(少なくとも私)にとっての「謝罪」とは元来とてもシンプルで、単純に「ごめんなさい/申し訳ありません と発言する」ということでしかありません。

また、「申し訳ないと思う」「反省する」も、自分が心の中で申し訳ないと思ったり、反省していればそれで完了です。

これは、ASDの言葉の捉え方が非常に逐語的で、言葉の意味に辞書的な意味しか想定しない傾向があるところから来ていると思います。

ASDでない人に自分の感じている申し訳なさを納得してもらうには、相手の怒りが治まって解放してもらうまで「申し訳なさそうな態度」をする必要があるのですが、ASDの多くはその必要性を理解していません。それに、理解していても表情や身体を動かすのが苦手な場合が多いです。(以前SNSで「ASDは謝るときはめっちゃお腹が痛そうな顔と姿勢をして謝れ」と書いていた人がいて、なるほど! と思いました。)

「ほんとに反省してる?」と問われて、「??? 反省してますよ?」と平坦な顔とトーンで言ったりしますし、「もう謝ったじゃないですか、何がいけないんですか」と言ってしまったりします。そこから、互いにズレた「反省」を想定した押し問答になって、最終的には人間関係トラブルに発展してしまうのでしょう。

また、ASDにはものごとの理解の応用がききづらいところもあります。たとえば、ASDがあるミスをして反省したとしても、次にほんの少し違う別の案件が発生すると、これはASDにとってまったく新しい案件となってしまい、前回の反省が生きません。このため、周囲からは「同じミスを繰り返している=反省していない」と見えることがあります。

さらに、ASDには小さな頃から、本来は本人が悪くない状況で悪者にされ、「ともかくごめんなさいしなさい」と無理やり謝らされてきた経緯があることも多いです。仕事の文脈で誰かの代わりに謝らなければならない場面もあります。

こんなふうに、ASDにとって、ASDでない人たちに囲まれて謝罪を求められる場面はとてもハードで不可解です。

ASDでない人のハイレベルな「謝罪」能力

こうして謝罪について考えているときに、ちょうどある芸能人のスキャンダルのニュースが流れてきました。妻の側が不倫をしたのですが、なぜか夫の側が記者会見を開いて、いかにもしおらしい態度で「すべては僕のせいです」みたいなことを言ったのですね。

私はこの二人の経緯をよく知らなかったこともあり、会見の一部だけ見たときに「立派な人だ」と思いました。ほかの世間の人たちにも、そう感じて彼に対して同情的な気持ちになった人が多かったようです。

(しかしすぐに、この夫氏が妻に対してモラハラしていた、自分も不倫していた、暴力事件を起こしていた、などの可能性が報道されました。報道の内容が本当かはわかりませんが、それで、世間の彼に対する評価も180度変わったようです)

私は驚きました。ASDの私には、自分が怒られたときに無用な誤解を受けないようにASDでない人の感覚を想像するので精一杯なのに、ASDでない人は「謝罪」を使いこなすばかりか、「謝罪」を使って周囲からの自分への印象をよくすることさえできるんだ、と。

謝罪のときに「ごめんなさいの言葉+申し訳なさそうな態度」が求められるのであれば、逆にそれさえ満たしていれば、社会的には「この人は反省している」「責任感のあるいい人だ」と判断されうるわけですね。私の頭ではそこに思いが至りませんでした。

ASDは「『謝罪』のしかたがわからない」だけ

私の場合、こうして分析することでASDでない人となんとかうまくやっていこうとしています。また、なるべくASDに関して理解がある人とつきあうようにしています。

私はたまたま自分で分析できましたが、ASD本人でも周囲の人たちでも、ここまで分析できる人は多くないでしょう。「謝罪」は多くのASDの人にとって本当に不可解で、ハードなコミュニケーションタスクだと感じます。

申し訳なさが態度に見えないASDに対して、どうか「性格が悪い」のではなく「皆と同じやり方がわからない」だけなのだと思って、手助けしていただきたいです。それとともに、ASDにとっての「謝罪」の感覚についても心に留めておいていただけると幸いです。元来、二つの違った「謝罪」のありかたがあるうち、ASDがマイノリティだというだけであって、どちらが絶対正しいというものでもないと思うのです。

ASDの人も、周囲の人を困らせたくて、奇異に見える言動をしているわけではありません。違いを認識しあえればトラブルも減って、もっとうまく共存ができるのではないかと、個人的には思っています。

執筆者プロフィール

宇樹義子(そらき よしこ)

1980年生まれ。早稲田大学卒。ASD、複雑性PTSD。
2015年に発達障害当事者としての活動を始める。LITALICO発達ナビなどで連載開始。 2024年、日本語教師としても活動を開始。複数メディアで活動を続けながら、次の発信を模索中。
現在、発達支援×日本語支援の分野に興味津々。

【著書】
#発達系女子 の明るい人生計画
―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました

80年生まれ、佐藤愛 ―女の人生、ある発達障害者の場合

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