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自閉症の息子の「オウム返し」から考えたこと

 自閉症の息子は22歳。「いってらっしゃい」と送り出すと、いまだに「いってらっしゃい」と言って出かけて行きます。それ以外の会話でのオウム返しはほぼなくなりました。 でも、会話の中で私の方がオウム返ししてやるまで納得しないことがあります。例えば、食事中のエピソードです。

息子「角煮、残していい?」と嫌いなものを残していいか、いちいち聞いてきます。

 私「うん」

息子(納得しない様子)

私「いいよ」(と言い直す)

息子(まだ納得しない様子)

 要するに私が「角煮を残していい」「角煮残していいよ」と、オウム返しをしないから納得していないのです。こういう時は、私がオウム返しをしてやるまで、何度もしつこく聞いてきます。

別の場面でのこと。

息子「散歩に行っていい?」

私 「うん」「いいよ」

息子(納得せず)

  私が「散歩に行ってもいい」とか「散歩に行ってもいいよ」と言うまで、しつこく聞いてきます。 「うん」や「はい」だとおそらく安心できないのだと思います。そして、これって健常者とのコミュニケーションにおいても、相手に安心感を与えるため、大切なことなんだとのちに気がつきました。

 傾聴ボランティアの研修で学んだオウム返しの有効性

 私は独居老人を訪問するための研修として、傾聴ボランティアの研修を受けたことがあります。そこでは「きく」には「聞く」と「聴く」 があり、「聞く」は単に相手の言葉が音声として入ってくることで、たわいのない会話だったらこれで十分だけれども、相手が不安で確認してくるときはしっかりと耳を傾けてきく、つまり「聴く」じゃないとだめだと言われました。

 具体的なテクニックとして、「うん、うん」「はい、はい」とただ言うだけでは不十分で、「相手がすべて話し終わったあとに、相手の言葉をそのままオウム返しする」のが良い話の「聴き方」なんだそうです。

例えばご老人に「ときどき、もうこれ以上長生きしたくないと思ってしまうんですよね」と言われた場合、相手の言葉をさえぎって「そんなこと言ってはダメですよ。もっと長生きしてくださいよ」と励ましの言葉をかけてはだめみたいです。

かといって「そうなんですね」と相手の言葉に共感するのも△、「ときどき、もうこれ以上長生きしたくないと思ってしまうんですね」と相槌を打つのがベストな対応ということです。そして、相手の話をじっくり聞いたあとに、こちらから何か話をするとよいそうです。

 これで相手は「自分の話をしっかり『聴いて』もらえた。理解してもらえた」と思うという研修でした。不安感が募り何でも確認してきて、同じ答えを要求してくる息子に対しても、同様だと思いました。

 オウム返しがたまたま傾聴になった

 私が学習塾を経営していたとき、授業中に座っていられない子がいました。ある日、スーパーに買い物に行ったとき、その子とその母親がいました。親子は、私の姿に気がついていませんでした。 

その子は通路を走り回り、売り物の野菜の葉っぱをちぎり、カゴに山盛りのお菓子を入れていました。母親は子どもを叱ったりたしなだめたりしながら、やっとの思いで必要なものを買っていて、疲れ切った様子でした。

 そんなとき、私と母親の目があってしまいました。母親は気を取り直す間もなく私の顔を見て次のように言いました。

「あ!立石先生、私、時々、この子を置き去りにして帰りたくなっちゃうんです」と。

 そこで思わず私は

 「そうですよね。落ち着きませんよね。(私は落ち着いて買い物が出来ないと言う意味で言ったのですが、子どもが落ち着かないと思われたかもしれません)置き去りにしたくなってしまいますよね」

とつい口に出してしまって、失礼なことを言ってしまったと後悔したものの後の祭りでした。でも、恐る恐る見上げると、母親は晴れ晴れとした表情をしていました。そして、目に涙を浮かべながら、「ありがとうございます。分かってくれて。そんな風に言ってくれた人、初めてです」と逆に感謝されたので、私は拍子抜けしてしまいました。

 もし、あのとき、「そんなことないですよ。落ち着きがありますよ。○○君にも良い面がたくさんありますよ」と言っていたら、「立石先生は週1回しか接しないから分からないでしょ!」と思われ、それ以降、私に何か相談したりすることもなくなっていたのかもしれないと思います。

 オウム返しで「置き去りにしたくなりますよね」と言ったことが、たまたま傾聴となったエピソードです。

 小学生のぼやきにも有効なオウム返し

 小学生のお子さんが「宿題多くて嫌になっちゃうんだよ」と言ってきたとき、「やることやってから遊びなさい!」「宿題やらないと先生に叱られるよ!」「宿題が多すぎると先生に言ってあげるから」などと返したら子どもはどう感じるでしょう。

 子どもは「宿題をやらない」と言っている訳ではありません。親に気持ちを聞いてもらいたいだけなのです。だから親はまず「そうなんだ。宿題が多くて嫌になっちゃうんだ」と共感すればよいのです。

 すると、子どもは「夕飯前に済ませておこう」となるかもしれませんね。

 

 

 

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
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