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療育には意味がないと思ってしまったら

息子が発達障害と診断されたことをきっかけに子育て相談や療育アドバイスの仕事を始めてからよくいただく質問に「療育って意味あります?」「療育では結局なにができるようになるんですか?」というものがあります。

療育にお子さんを通わせていても効果や成長が感じられなかったり、療育の先生の言動が障害や子どもへの理解がないように見えたりすると、「療育って意味がないのでは?」と思ってしまいますよね。

我が家の場合

わたしも、息子が自閉スペクトラム症と診断された3、4歳の頃、療育に通わせていた時期がありました。当時は、療育に行けばできることが増えるという思いがありましたし、「診断がつく」イコール「療育」という自然な流れができあがっていたように思います。「療育」とは、診断がついた息子には必要なものであり、息子の成長や発達を促してもらえるものだと思っていました。

しかし、実際に通わせてみると、療育に連れていくこと自体がとても大変です。大きな原因は、息子に複数の感覚過敏があったことや、療育内容が難しく毎回失敗体験で終わる、ということが影響していたように思います。

担当してくださった先生は、とても熱心で「息子の発達にあった課題」ではなく、「社会一般、集団生活の中で困らないように」と課題を設定してくださったのだと思います。

ただでさえ、外出が苦手な息子。自宅を出発する前から行きたくなくて癇癪を起こす息子を怒って泣かせることが日常で、療育施設に到着する頃には母子共々疲れ果ててしまっていました。

「このまま通っていて、本当に意味あるのかな?」という思いが日に日に強くなり、その療育施設に通うのを辞める決心をしました。

療育に通うことは、息子の発達と成長を促すことができると考えていたので、辞めることは大きな決断でしたが、わたしが発達障害の子育てで大切にしていたことは「成功体験」。それが得られないのであれば、意味がないと思ったのです。(著者注※ 療育を否定しているわけではなく、療育の先生との間に信頼関係を築け、専門的なサポートを受けられるのであればそれが一番かと思います。あくまで浜田家のケースとしてお読みください。)

療育とは?

「療育」とは、もともとは身体に障害のあるお子さんを対象に、「治療をしながら教育すること」を表す用語であり、現在は「発達支援」と同じ意味を持つ言葉として使われています。「お子さんの状態に寄り添い、社会的に自立して生活できるように支援をおこない発達を促すこと」と考えることができるかもしれませんね。

ただ、この療育の切り取り方はそれぞれ。どんな風に切り取るかで優先順位が変わってきます。例えば、わが家の場合、わたしは「子どもの状態に寄り添う」。療育の先生は「社会的に自立して生活できるように」ということを大切にしていたのだと思います。

親御さんも支援者さんも目指すゴールは同じはず。でも、解釈に違いがあると窮屈な支援になってしまったり、不満を感じてしまったりすることがあるでしょう。

療育への迷い

特に、年長さんになると、親御さんには「就学」という不安や心配が押し寄せてきます。

集団生活や学習面の心配、どの学級を選択するかという大きな選択に迫られるため、就学のために療育を利用しているご家庭も多く、療育への期待はますます大きくなることと思います。そのため、お子さんと療育の先生の関係に、親御さんがやきもきする場合もあるかもしれませんね。

わが家のように、先生との信頼関係が築けずに療育を嫌がる時。逆に、先生と仲良しすぎて、毎回ただ遊んでいるように見える時。また、先生のスキルや理解に不満があり、意味あるのかなと感じてしまう時。

もし、先生たちと意見が合わなかったり、理解が得られなかったりすると、わが家のように「辞める」ことに気持ちが傾くでしょう。でも、専門的なサポートが無くなる不安もありますよね。

このように迷う時には、一度立ち止まって療育の目的を再確認することをおすすめします。

「わが家の」療育の目的を決める

  • 就学へ向けて集団生活への準備
  • 子どもの居場所作りや自己肯定感を育む場所
  • 子どもの苦手を克服するために教育してほしい
  • 親の息抜きのための利用 など

療育の目的は、様々です。でも、もし今の療育に意味を見出せない時には、次のワークをしてみてください。

【ワーク①】療育の目的を書き出す

【ワーク②】「子ども」「親」の二つの視点でプラス面とマイナス面を書き出す

わが家の場合を例にすると・・・

【ワーク①】療育の目的

  • 息子の居場所作り、家族以外の人と楽しい関わりができる

【ワーク②】「子ども」「親」の二つの視点でプラス面とマイナス面を書き出す

〇子ども

  • プラス面 ・・・なし
  • マイナス面・・・行きたくなくて自宅で癇癪を起こす、行けても失敗体験を重ねる

〇親

  • プラス面 ・・・家から近い、ひとりの時間が取れる
  • マイナス面・・・子どもを怒ることが増えて自己嫌悪になる、先生にも不信感

書き出すことで現在の状況を客観視できるので、これからの療育に対しての方向性が見えてきます。(それぞれの割合いを数値化(%)するのもオススメです)

「期間を決めて休む」方法もある

ちなみに、療育は子どものためだけのものではありません。例えば、子どものプラスが少なくても、親のプラスへの影響(信頼して話せる相談先である、子どもとの関わり方を学べる など)が大きいのならば、療育を継続することも選択肢のひとつです。

また、マイナス面しか見えてこない場合や心のどこかで意味がないのでは?と思っていても、療育を辞めることはとても勇気がいりますよね。そのような時は、継続する・辞めるの二択だけではなく、「期間を決めて休む」「他の療育を探す」ということもオススメします。療育を一定期間休んでお子さんのことやご自分のことを観察することで、「今の療育が本当に必要かどうか」を改めて考えるきっかけになります。

自宅で子どもの発達と成長を引き出すはじめの一歩

療育はその道の専門家が行うものだと思われる方もいらっしゃると思いますが、療育的な関わりは自宅でもできます。逆に、お子さんが一番長い時間過ごし、安心する家族や物に囲まれた環境である自宅での日頃の関わりこそが、発達や成長に大きな影響を与えます。

今日は自宅での療育的な関わりのはじめの一歩をお伝えしますね。それは、自宅で「お子さんの好きなことを見極める」です。例えば、お子さんたちがはまってしまうYouTubeですが、「iPadで動画を視聴することが好き」だけでは弱いです。

  • なぜiPadなのか?
  • なぜその動画が好きなのか?
  • 繰り返し見ているのは何か?
  • それを見ている時はどんな様子か? 

などを観察したり、質問したりしてみましょう。

一番のオススメは、お子さんの好きなことを一緒に経験することです。お子さんが大好きな動画を「教えて」「一緒に見よう」といいながら、まずは興味を示すことからはじめましょう。これは、お子さんとの信頼関係を築くきっかけにもなります。

発達障害やグレーゾーンのお子さんの多くは、好きなことには止めるまで熱中するのに、興味がないことには見向きもしません。逆に、「好き」があるからこそ、集中したり、頑張れたり、我慢したりできるようになるのです。

好きを一緒に共有し、信頼関係を築くことで

  • 人との信頼関係
  • コミュニケーション力
  • 集中力
  • 努力
  • 忍耐力 など

将来に必要な社会性や自立のスキルを学び、積み重ねるきっかけになります。

言うは易く行うは難しですが……私も試行錯誤しながら息子の成長に付き合っていきたいと思っています。

 

執筆者プロフィール

浜田悦子(はまだ えつこ)

発達障害・グレーゾーン専門
子どもとママのための家庭療育アドバイザー

繰り返す問題行動に怒られてばかりの子どもと 孤独な子育てに苦しんでいるママに寄り添い、 子どもの自己肯定感とママの子育ての自信を取り戻し 笑顔に導く家庭療育アドバイザー。
自身の子どもが発達障害と診断されたことをきっかけに、発達支援センターの指導員へ。以来、約2,000人以上の親子に関わる。
大学、発達支援センター、放課後等デイサービスでの講演・研修多数。

【著書】
『発達障害&グレーゾーンの子どもを「急かさず」「怒らず」成長を引き出す言葉かけ 』浜田悦子 (著), 汐見稔幸 (監修) 実務教育出版

【執筆・監修】
ユーキャン 子ども発達障がい支援アドバイザー講座
ユーキャン 思春期発達障がい支援アドバイザー講座

【メディア掲載】
毎日新聞、中日新聞、朝日新聞、ひよこクラブ、朝日新聞 WEEKLY AERAなど

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