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障害者を支える制度や仕組みの疑問に答えるシリーズ-遺言書編

「親なきあと」相談室主宰の渡部伸です。障害のある子、特に知的障害や発達障害があり相続に関する判断能力が不十分な子にどう財産を相続すべきか心配されている親御さんもいらっしゃるのではないかと思います。今回は相続の手段の一つである「遺言書」について、Q&A形式で解説していきます。

遺言書は必要ですか?

 “争続”はお金持ちだけの話ではありません。遺言書がないと、相続人でその人の財産をどう分けるか決めることになりますが、話し合いで解決できない場合は家庭裁判所に調停を申し立てることになります。令和2年度の司法統計によると家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件のうち、「認容・調停成立件数」の約3分の1は遺産額が1000万円以下。

決してお金持ちだけではない、どこの家庭でも起こりえる争いなのです。そんな争いを防ぐためにも、自分の考えをしっかり遺言書の形にしておいてほしいと思います。

(参考※令和2年度司法統計より 第53表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―審理期間別代理人弁護士の関与の有無及び遺産の価額別―全家庭裁判所) 

また、遺言書がない場合は、法定相続人全員が財産の分配方法について合意したことを証明する「遺産分割協議書」が必要です (ただし法定相続分どおりに遺産分割を行う場合は不要)。こには相続人全員の署名と実印が必要になるのですが、このとき相続人の中に障害のある人がいて、本人では署名ができない、実印がないといった状況だと、成年後見人をつけてもらう必要があります。

もう後見人がついている、あるいはこの機会に後見人をつけようということでしたら、問題はありません。しかし、まだ後見制度を利用したくないと思っていたときに相続が発生すると、意に反して成年後見人をつけなくてはいけないことになってしまいます。こういったことからも、相続人に障害のある人が含まれる場合は特に、遺言書を準備され、かつ後述する遺言執行人を定めたほうがいいというのが私の考えです。

遺言書は公正証書にしたほうがいいですか?自筆証書遺言との違いはなんですか?それぞれのメリットとデメリットは?

遺言書の種類は自筆証書遺言と公正証書遺言が代表的ですが、どちらも効力に差はありません。以下に自筆証書遺言と公正証書遺言それぞれのメリット/デメリットを述べます。

大まかに言うと、自筆証書は書く人は楽だけれども相続人が大変。公正証書は書く人は大変だけれども相続人は楽、といった感じになります。

-自筆証書遺言のメリット/デメリット

遺言書のうち、財産目録以外をすべて手書きで記したのが「自筆証書遺言」です。自筆証書遺言は手軽に作成できるのがメリットですが、書いた人が亡くなった後に、相続人が家庭裁判所に集まって確認する作業(検認)が必要です。また、ルール通り書かれていないと無効になったり、紛失したりする恐れもあるのがデメリットです。

-公正証書遺言のメリット/デメリット

「公正証書遺言」は公証役場で2人以上の証人の立ち会いのもと、公証人が作成した内容を、遺言を遺す人が確認し、間違いがなければ最後に署名・押印をして完成するものです。

検認の作業は不要となり、出来上がった遺言書は役場で預かってくれるので紛失することもありません。こちら大きなメリットですね。ただし、作成時には手間がかかり、相続財産等により費用もかかることをデメリットと考える人もいるでしょう。

自筆証書遺言を預かってくれる制度があると聞きましたが、どんなものですか?

自分で保管していると紛失したり第三者に書き換えられたりするリスクがある自筆証書遺言ですが、2020年から特定の法務局で保管してくれる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。これを利用することで、紛失などを避けることができ、さらに手間のかかる検認の必要もなくなるので、自筆証書遺言のデメリットをある程度軽減することができます。

また、自筆証書遺言には遺言者の死後に発見してもらえないリスクもありますが、自筆証書遺言書保管制度を利用し、あらかじめ1名を指定しておくことで、法務局が遺言者の死亡の事実を知ったときにその指定された者に対し、遺言者の氏名・出生年月日・遺言書が保管されている法務局の名称及び保管番号を通知してくれるため、遺言の存在を確実に知らせることができます。

保管の申請にかかる手数料は3,900円(※2024年3月現在)と比較的安価な割にメリットの大きな制度ですので、自筆証書遺言を考えておられる方は「自筆証書遺言書保管制度」の利用も併せて検討されるとよいでしょう。

ただし、内容のチェックまではしてくれないので、もし遺言内容について事前に確認してほしい場合は、専門家等に相談してください。

障害のある子に不動産を相続させたいのですが

重度の障害者の場合、もし土地なり家屋なりを相続したとしても、自分で管理するのは厳しいと思われます。あくまで一般論ですが、障害者にはできるだけ現金で財産を残してやり、親なきあとに支援者側が本人のために使いやすいようにするのが得策だと思います。

遺言執行者の役割は?必要ですか?

遺言執行者とは、遺言書に書かれている内容を実行する権限がある人です。相続人全員が署名押印した書類がなくても、単独で金融機関でお金をおろせ、不動産の相続登記ができます。

(遺言執行者の指定がない場合は、金融機関で口座の凍結を解除するときに、相続人全員の署名と実印のある相続手続きの書類を提出する必要があります。その際、相続人に障害があり、判断能力に欠ける場合は成年後見人をつけることが必須となります。)

この遺言執行者は、銀行や弁護士などの第三者に依頼することもできますが、相応の費用がかかるので、相続人のうち誰かを指定しても構いません。必ず指定しなければ相続ができない、というものではありませんが、便利な存在ではありますので、ぜひ覚えておいてください。

遺言の制度は今後変わるのでしょうか?

現在政府が導入を検討しているのが、デジタル遺言制度です。デジタルで作成できるのは今のところ財産目録だけですが、電子的な方法で遺言そのものを作成、保管することを認めるかどうかなどが検討事項です。これが実現すると、遺言書の保管がラクになる、形式不備で無効になるリスクが減る、などのメリットがあるとされています。ただ、本当に本人が書いたものか、第三者から圧力を受けて書かされたものではないかなど、不安がぬぐえません。遺言書が本人の真意に基づくものであるのを見極めるという課題もあり、慎重な議論が必要となっています。

執筆者プロフィール

渡部伸

1961年生、福島県会津若松市出身
「親なきあと」相談室主宰
東京都社会保険労務士会所属。
東京都行政書士会世田谷支部所属。
2級ファイナンシャルプランニング技能士。
世田谷区区民成年後見人養成研修終了。
世田谷区手をつなぐ親の会会長。

主な著書
障害のある子の「親なきあと」~「親あるあいだ」の準備
障害のある子の住まいと暮らし
        (ともに主婦の友社)
まんがと図解でわかる障害のある子の将来のお金と生活(自由国民社)
障害のある子が安心して暮らすために~知っておきたいお金・福祉・くらしの仕組みと制度(合同出版)

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