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「きょうだい」である弁護士が親御さんに伝えたいこと

私は、障害のある弟と育った「きょうだい」の立場の弁護士です。先日、新刊『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと: 50の疑問・不安に弁護士できょうだいの私が答えます 』(中央法規出版)を出版しました。

この本では「(きょうだいが)兄弟姉妹の世話をするか?」「どのような進路・職業を選ぶか?」などきょうだいが抱えることの多い悩みについて、法律に基づいた回答を提示することで、きょうだいの疑問や不安、モヤモヤの解決を目指しています。(家族の関係性や人の気持ちは複雑で、法律だけで解決することはできないものもありますが、ある意味ドライでシンプルな法律だからこそできることもあると考えています。)

きょうだいの活動を通して知り合った、親の立場にある方々は、「障害のある子のことで頭がいっぱいになってしまうけれど、きょうだいも大切」「きょうだいの考えや思いを知りたい。聞くのは少しこわいけれど一緒に考えたい」と話してくださいます。

とはいえ、「自分の子どもとは直接話しにくい」という方が多いです。そして、多くのきょうだいも「親には自分の考えや思いを理解してほしいけれど、親の大変さや気持ちもわかるだけになかなか話せない」と感じています。私の親も私自身もそうでした。

拙書の書影です。章立てとふんだんに使ったイラストの効果で、とても読みやすい本になっていると思います。

「将来は障害のある兄弟姉妹をよろしくね」「実家の近くで進学や就職をしてほしい」って絶対にやらなきゃだめ?

拙書に挙げた50の質問のうち、最初の質問は「障害のある弟がいます。きょうだいは一生、世話をしなくてはいけないのですか?」としました。多くのきょうだいから何度も訊かれた質問です。

私自身も幼いころから同じような言葉をかけられてきて当時不安を感じていましたが、弁護士の回答としては「NO」です。ズバッと言ってしまいますが、法律上では、きょうだいが障害のある兄弟姉妹の世話をすることは義務や強制ではありません。

関連して、「実家の近くで進学や就職をしてほしいと言われたけれど、そうしなくてはいけないのか?」「自分がやりたい仕事よりも障害に関係がある医療や福祉の仕事、障害のある兄弟姉妹を養えるように安定している公務員や稼げる仕事などがいいか?」などの質問もあります。こちらも回答はNOです。こうしなければいけないという法律上の義務や強制はありません。自分の希望や状況で自由に選択できます。(成人になれば)親の許可や同意は不要です。

きょうだいのプレッシャーや不安を知ってほしい

「きょうだいが障害のある兄弟姉妹の世話をすることは義務や強制ではない」、このように話すと、きょうだいからは「法律上、義務や強制はないと聞いて、すごく安心した」という反応がとても多いです。それだけプレッシャーや漠然とした不安があるのだと思います。

また印象的だったのは、負担を感じている場合だけでなく、障害のある兄弟姉妹のことが好きで自分にできることはしたいと思っている場合でも、「安心する」という声がいくつもあったことでした。

「将来は障害のある兄弟姉妹をよろしくね」「実家の近くで進学や就職をしてほしい」などの言葉は、私の親も「つい、そう思ってしまうし、言ってしまった」と話してくれましたが、そのような声は無意識のうちにきょうだいにとって縛りや負担になってしまいます。

親御さんには、将来を縛ったり負担を感じさせるような言葉がけは避け、本人の意志や希望を尊重していただくようにお願いできればと思います。

著者近影

障害のある兄弟姉妹のためにも

もちろんですが、私のような「きょうだい」だけではなく障害のある兄弟姉妹にも、きょうだいとどのように関わるのか、誰からどのような支援を受けるかを選ぶ権利があります。本来、障害のある兄弟姉妹は障害があっても、自立した一人の人間です。障害がある/ないきょうだい同士が互いに対等な関係でいるためにも、障害のある兄弟姉妹が家族の支援から自立して、福祉サービスや障害年金などの社会の支援を得ることが大切だと思います。

漠然とした「将来よろしくね」ではなく、障害のある兄弟姉妹がこのような福祉サービスや障害年金を受けていて、こうした手続が必要になるなど具体的な情報の共有があった方が、きょうだいも自分が何をどのくらい関わることができるのか現実的に判断しやすくなると思います。

私自身も、きょうだいの先輩から話を聞いたり、大人の障害のある人が福祉支援を受けながら生活している様子を知ることで、具体的なイメージを持て、不安を減らすことができました。正直、もっと早く知っていたかった……!親はなんで早く調べて教えてくれなかったの?と思いました。

「家族だけで抱え込まない」こと、親御さんは意識してほしい

まだまだ社会の制度も十分とはいえず、親御さんがきょうだいを頼りたくなる気持ちは十分に理解できます。 ただ、見ていると、福祉サービスや障害年金などの今受けられる支援の存在を知らず、制度の恩恵を受けられていないご家族が少なくありません。

非常にもったいないと感じますし、早いうちから オープンに行政や専門家などの情報や支援につながってほしいと思います。それによって、きょうだいも安心しますし、親の姿から「何かに困った時は抱え込まずに適切な相手に相談できる、助けてもらえる」ということを学べます。そもそも家族だけで抱えておける問題ではありません。

「少しでも良い選択」ができたと思えるように

ここまで読んでくださった親御さんは、「障害のある兄弟姉妹には社会から支援を受けながら自立してほしい」「きょうだいには自分の人生を自由に生きてほしい」という願いと、「けれど、現在の制度には限界がある」「きょうだいを頼りたい」という不安や葛藤のなかで、「少しでも良い選択をしたい」という思いをお持ちの方が多いのではないでしょうか。

私の親も同じはずです。そして子である私としては、親に「安心してほしい」「子育ての他にも、自分の人生を楽しんでほしい」と思っています。

私自身も、実家の親が高齢になってきて、本当の意味で問題に向き合いつつありますが、これまで聞かせていただいてきたきょうだいの先輩や親御さんたち、専門家の体験談を活かせるように、親も、弟も、私自身も「少しでも良い選択」ができたと思えるように、試行錯誤していきたいと思います。

↑画像から立ち読みページに飛べます!(『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと: 50の疑問・不安に弁護士できょうだいの私が答えます 』(中央法規出版))

執筆者プロフィール

藤木和子(ふじき かずこ)

1982生まれ。弁護士。
障がいのある弟と育ち、「障がいのある人のきょうだい」の立場で活動。
全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会 副会長
シブコト障害者のきょうだいのためのサイト 共同運営者
聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会 代表
NHK、AbemaTVに出演、新聞各紙に掲載。
YouTube ⇒ SODAきょうだい児と福祉、法律、情報ちゃんねる
最新プロフィールはこちら⇒https://note.com/kozukazuko/n/n71a9179ad833

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