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子ども扱いしないで

私は週末に、知的障害者移動支援の仕事、ガイドヘルパーをしています。あるとき41歳の自閉症のある成人男性「ケンちゃん(仮名)」と外出しました。ケンちゃんは41歳なので大人ですが、知的障害もあるのでまだまだ可愛い子どものように私は思っていました。そしてケンちゃんの年齢も考えずについ子ども扱いしてしまって、手を離すと脱走するわけでもないのに、道中ずっと手をつないでいました。

ケンちゃんも拒否することなく、手をつないでくれていました。そういえば呼び方もちゃん付けして「ケンちゃん」と呼んでいました。

研修を受けて反省

先日、障害のある子どもの性に関する研修を受講しました。その中で重度知的障害のある22歳の男性の入浴介助の話がありました。

母親が裸になって一緒に風呂に入って身体を洗っているケースについて、たとえ知的障害があったとしても彼は22歳の立派な大人の男性なのだから、彼の実年齢に応じて母親はTシャツや水着を着て入浴介助するべきだと講師は話していました。

この話を聞いて、私は先日の自分のケンちゃんとの関わり方を反省しました。

ケンちゃん→鈴木さんに変えてみた

次の外出のとき、ケンちゃんではなく苗字で呼ぶことにしました。

「鈴木さんは大人だから、今日からは手をつながないようにしますね」

言葉遣いも今までだったら「手をつながないようにするね」と言っていたところですが、丁寧語を使いました。鈴木さんは素直に「はい、わかりました」と答えました。けれども、自閉症の鈴木さんには初回に私が手をつないでいたことで、パターン化されたのでしょう。手を握ろうとします。そこで私は

「ごめんなさい。今日からは手をつながないようにしましょう。立石さんのこの間の鈴木さんに対する対応が間違っていることに気付きました」

と伝えました。すると、鈴木さんは「女の人と手をつなぐのは犯罪です。刑務所です。逮捕です」と抑揚のない声でずっと叫んでいました。一時的に収まっても帰りの電車内でまた同じことを言います。私は「手をつないだからといって、逮捕されることはありませんから安心してくださいね」と丁寧語を使って何度も説明しました。

そういえば息子も

息子は23歳になりましたが、6歳から18歳までの12年間は、下校後の時間を放課後等デイサービスで過ごしました。そこのスタッフは息子を幼い頃から見ているので、親と同じ気持ちになって「○○ちゃん」「○○」と息子のことを呼び捨てにしてくれていました。私もそれが心地よかったのですが、特別支援学校高等部を卒業してショートスティで同じ事業所を利用したときは「立石さん」と息子のことを呼んでくれました。

親への報告も「食事は全部召し上がっていました」「楽しんでいらっしゃいました」と、一人前扱い、大人扱いしてくれて、それが心地良く感じる私です。障害の軽度重度に関わらず、実年齢に合わせた対応が大切なのだと感じます。

そういえば……認知症の方へ「ちゃん付け」して、子どもに接するような話し方をする介護職の方もよく見かけます。人生の大先輩、たとえ認知症であっても子ども扱いしてはいけないように思います。

 

 

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
テキトー母さんのすすめ(アメブロ) https://ameblo.jp/tateishi-mitsuko/

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