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私が療育で得たもの─駆け出し障害児ママの入門─

子供の発達が遅れていたり、障害があるという診断を受けたりすると、療育を検討される方が多いかと思います。私は初めて「療育」と聞いたときに、どんな施設で何をしているのか分からず不安を覚えました。そこで今回は、私が息子の療育で通った未就学児のデイサービス施設で、どんなことをしていたのか、また通ったことで得たものなどを、わが家のケースとしてお伝えします。

「毎日通園」が私に務まるか?

息子は1歳になっても人と目が合わず、名前を呼んでも振り向きませんでした。1歳半健診、追加健診、精神科の受診を経て「自閉症(中等度精神遅滞)」と診断を受けたのが2歳の時です。途方に暮れていたところ、保健師さんから「母子通園施設」で療育を受けることを勧められました。療育って何? 母子通園施設って何する所? なんだかよく分からないけれど、小さな光の差す方向へ行くしかなくて、申し込むことにしました。

紹介された施設は親子で通うことが条件で、かつ登園は月曜から金曜の毎日。朝から午後まで、親もみな園で過ごすのだと聞かされました。息子の姉の保育参観に行っただけでなんだか疲れてしまうような、人見知りで女の集団を少々苦手とする私。母子通園は考えただけで気が重くなります。息子より、自分が続けられるかのほうが心配になりました。

いやいや毎日っていうけど「来られる人は」って意味でしょきっと。うちは行けるときに顔を出せばいいや。そう思い直して飛び込んだのですが……いざ通い出してみると、そんな甘いものではなかったのです(゚_゚;)。

母子通園施設の一日

園には20組ほどの母子が在籍していました。先生は担任制で、ひとりの担任が3~4人の子供を受け持ちます。活動は毎日同じルーティンで

【出席シール貼り ⇒ 体操着に着替え ⇒ 親子でマラソン ⇒ 親子で体操 ⇒ お集まり(手遊びや歌) ⇒ 日替わり活動 ⇒ お弁当 ⇒ 自由あそび ⇒ 着替え ⇒ 帰りの会】

といった流れです。日替わり活動は工作、散歩、プール、ダンス、料理、季節の行事など普通の幼稚園と同様。親は基本「お集まり」と「お弁当」以外は子供に付いて、「日替わり活動」は内容により同席します。トイレ指導もしていただけます。2歳半で通いはじめた息子も、入園してからオムツがとれました。

このほか週一回の個別指導があります。内容は先生と子供が一対一で机に向かい、療育玩具を使った認知学習の指導、手先を使う練習など。最後に親と先生が困りごとの聞き取りや、状況・課題の共有をします。

この園では親にも、子供と離れている時間にこなすべき仕事があります。園内の掃除や子供たちの食器の煮沸消毒、保護者会の運営、勉強会、運動会・クリスマス会の親の出し物の練習、プレゼントの準備やバザーなど、年中やることが控えていました。

保育室で、親子で先生のお話を聞いています

先生の関わりをみて学んだこと

息子の担任は、保育経験が長く、引退を数年後に控えたベテランのお母さん先生です。朝あいさつした瞬間から、活動ひとつひとつにおける息子の言動を観察して、特性を見極め、介入してくださいました。息子が変わっていった、先生の関わり方を一部ご紹介します。

関わり方:日常生活で「できる」を増やす

たとえば息子は入園当時、手提げカバンを自分で持つことや、帽子をかぶることを拒否していました。そのため通園時はキャップをぶら下げたカバンを私が持ってやっていました。

これを知った先生は、息子の好きなキャラクターのぬいぐるみをカバンに入れて見せ、歩き出した息子の手にサッと取っ手を握らせ「すごーい!」と拍手したり、何かを握って手が空いていないときに、これまたサッとキャップをかぶせて「すごーい!」と拍手する ─ こんな感じで「持てる」「かぶれる」体験をさせてくださり、息子も受け入れていきました。

偏食も課題のひとつでした。お弁当の時間、先生は息子にぴったりついて「がんばれば食べられる食材」については、適度な「圧」を加えてがんばらせます。あるときは「きのこ」を食べられるようにと、お弁当を食べている息子の口に絶妙のタイミングで小さなシメジをポンと入れ「すごーい!食べられたね!」と満面の笑みで拍手。すぐに好きな梨を与えるごほうび作戦を併用する方法で慣れさせ、食べられるものが増えていきました。

関わり方:こだわり崩し

息子のこだわりのひとつに「いちばんになりたい」というものがありました。朝のマラソンのため外に出るのはいちばん先。園に戻り体育館に入るのもいちばん。体操が終わり保育室へ戻るのもいちばん……といった感じです。でも、同じような特性の子供たちが20人もいるのですから毎回叶うはずがありません。いちばんになれなかった時はひっくり返って泣きわめきます。ほかには保育室での座る場所、園内を移動する動線、物を触る順番など、息子は次々にマイルールを決めてこだわりました。

これに対する先生方の方針は「こだわりは強化されないうちに崩す」。例えば息子より先に誰かがいちばんになることを止めない、息子が狙う席に先に誰かを座らせてみる、といったことを試みます。あらかじめ「泣かせてしまうかもしれないけど、やってみますね」と私に同意を得て、試した結果やはり泣くのですが、渋々受け入れたときには大げさに喜んでほめてやります。

こだわりが通らない経験にぶつかっていくうちに、息子はこだわる対象を「1番」から「3番」に替えたり、別の移動動線を設定したりしましたが、そのたびにこだわりの強度は穏やかになったと感じました。(もちろん、こうした関わりは子供の様子を見ながら行われ、無理はさせません。)

園では「ほめて強化」「視覚に訴える」「活動の予告をする」など、子供の特性に合わせた関わりを取り入れていましたが、私が療育を受けて感じたのは「先生がしていることは、さほど特別なことではない」ということです。何か特別な「技・手法」というより、工夫しながら「働きかけ続ける」ことを地道に、丁寧に行っている。そんなふうに見えました。この姿勢からの学びが、私にとって療育期間の最も大きな収穫だったといえます。

親の役割に気づいた

療育を始めるまでの私は、息子のできないことや障害特性を「そのうちできるようになるだろう」「大きくなれば変わるだろう」とのんきに構えているところがありました。だから持てないカバンは持ってやったし、息子の言葉の間違いも「かわいい」と思ってしまって直そうとしない。そんな親でした。

でも先生は、活動のあらゆるシーンを利用して、息子がその日ひとつでも成長できるようにと働きかけ続けてくださいました。おかげで息子は、椅子に座っていられるようになり、お友達と手をつなぎ、列に並び、おもちゃを人にゆずり、プールに慣れ、好き嫌いが減り、言葉で伝える……これ以外にもたくさんのことを身につけていきました。

「そうか、一人でなんでも吸収していった上の子とは違って、この子は放っておいて出来るようになる子ではない。出来るように関わるのが私の役目なのだ」そう気づかされたのです。

この子のためなら、本気出したる!

「療育は毎日の積み重ね」。これは先生方がよく語られた言葉です。日々繰り返すルーティンにも意味があります。きのう見られた小さな変化が、今日の「できた」になるかもしれない。活動を「毎日」繰り返すことが成長につながると、先生方は信じて指導してくださっていました。

毎日通園することで、入園直後は自分の自由な時間が奪われたと感じることもあった私でしたが、先生方の熱意と子供たちの変化を目の当たりにするうち、いよいよスイッチが入りました。

「この子のためなら、本気出したる!」

それからは自宅でも、その日のスケジュールをあらかじめ書いて見せて見通しがつくようにしたり、覚えてほしいことを視覚で伝えられるようカードを作ってみたりと、できる工夫を始めました。子供の言葉の間違いも「その場で正しい言葉を重ねてあげるのよ」という先生の指導をすぐ取り入れました。

ママたちとの会話はパワースポット

園にいるお子さんたちはそれぞれに苦手や困難があり、その姿も私の障害への理解を深めてくれたのですが、その子にママさんがどう接しているのかも、大変参考になるものでした。毎日会っている子が、苦手を乗り越える瞬間に立ち会えるのも喜びです。

わが子への不動の愛を武器に、この小さな施設に入門した母たち。痛みが分かる者同士、つらい事をしゃべって笑って吹き飛ばせる場所は、私にとってパワースポットでした。

入園当初は、あまりに目まぐるしい園生活に戸惑いもしましたが、仕事がいろいろあるほうがママたちとの話題も増えます。入るのが億劫だった女社会にも「飛び込んでみればなんとかなる」という経験にもなりました。

クリスマス会で親の出し物を披露するママたち

年長から、普通幼稚園へ

2年半の療育で、息子は「健常児と関わらせてみたい」と思えるほどに成長してくれました。そこで年長の1年間を姉の通った普通幼稚園(加配つき)に通わせることとし、年中をもって療育園は卒園しました。

療育は子供だけでなく、卒園後に先生に代わって子供を導かなければならない母親も育ててくれる場所でした。私が「この先もこの子となんとかやっていけそう」という気持ちになれたのは、まさに療育のおかげです。

療育施設にもいろいろあり、お子さんだけが通う所や、受け入れが毎日ではない所もあるでしょう。私の療育園経験はハードモードでしたが、息子がいちばん成長した時期にその姿を目にすることができたことと、療育的な視点を障害児育児の初期に叩き込んでもらえたことは、財産と言ってもよいのではと感じます。

療育を検討中の方のヒントになればうれしいです。

執筆者プロフィール

細川 有美子(ほそかわ ゆみこ)

1968年生まれ、福島県在住。
バックパッカーとして海外旅行中に出会ったエジプト人と2000年に結婚。現地で子供2人を出産する。2003年子供と帰国したのち、息子の発達障害が判明。夫とは2005年に離婚。
これまでに自閉症(中等度発達遅滞)・ADHD・精神障害・難病(クローン病)の診断を受けた息子の子育てと現在を、Instagramで発信。
2014年より取材・執筆活動を開始し、現在は事業所でのパート勤務、再婚の夫とふたりで米づくりにも奮闘している。
◇たきちゃん農場 https://www.takirice.com/
◇Instagram https://www.instagram.com/yumiko_days

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