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こだわりボックス

自閉症のある子は生まれつきの想像力の障害がある子だと聞いたことがあります。見通しが立たないと不安になります。そのため、心の安心、安全を保つために一定のパターンに固執することがあります。それがいわゆるこだわりです。

親にしてみれば「同じ電車でないと嫌」「同じ靴でないと嫌」「同じ道順でないと嫌」など正直どうでもいいことにこだわられると大変なので、そのこだわりを取り上げたくなることも時にはあります。しかし、子どもは安心安全を求めてまた別のこだわりを求めてしまう、その繰り返しです。

自閉症のある子は「こだわりボックス」を持っていると思う

自閉症のある子は「こだわりボックス」を持っている。こだわりボックスが満タンでないと不安になる。だからこだわりを取り上げられてしまうと、空いた部分を満タンにするために別のこだわりを作る、そんな風に感じます。無理矢理取り上げたのではなく自然とこだわりが治まったのだとしても、また新たなこだわりが出現することもあるので余計そう感じます。

息子の場合は

  • 消火器のメーカーを確認するこだわり
  • 非常口のマークを探して回るこだわり
  • NHKの夜のニュース「こんばんは、NHKニュースです」のアナウンサーの第一声「こ」と同時に夕飯の一口目を口に入れないとダメなこだわり

などたくさんありました。

自閉症のある子を育てる親御さんはこだわりに付き合う生活を送っていることがよくあります。そんな生活に疲れて、なんとかこだわりを無くしたいと思っている親御さんもいます。でも、そんなことをしても、こだわりボックスを満タンにすべく、新たなこだわりが出てくるので、取り上げても取り上げてもいたちごっこ、あきらめた方が良い場合もあると私は思っています。

とはいえ認めてはいけないこだわりもある

こだわりボックスが満タンになっていると安心して生活できるなら、こだわりを認めてあげなくてはなりません。親も修行ですね。とはいえ、このこだわりが人に迷惑をかけるものだったら困ります。例えば……

  • 走行している車のナンバープレートを触るこだわり
  • ベビーカーに乗っている赤ちゃんの鼻を触るこだわり

そんなこだわりは認められませんし、止めさせるしかありませんよね。ではどう止めさせるか。

車のナンバープレートを触るこだわりについては、「触りたいよね」とまず、子どもの気持ちを代弁し、そのあと「ひかれて死ぬ」と、それをしてはならない理由を明確にしっかりと伝えるとよいと思います。

「赤ちゃんの鼻、ぷにゅぷにゅしてるから触りたくなるよね(にっこり)、でも、この子はうちの赤ちゃんじゃないの。だから、それはぜったーー---いに、してはならないこと」と伝えます。

認められないこだわり、どう回避する?

さて、「相手が嫌がることはやってはいけない」というよくある伝え方は、自閉症のある子にはなかなか伝わりにくく通用しないとされています。自分とは違う他者の気持ちを想像する“心の理論”が年相応に育っていないからです。

だから走行中の車のナンバープレートに触りたがるなら代わりのナンバープレートを用意し、赤ちゃんの鼻を触りたがるなら、ぷにゅぷにゅした触感の何かを用意する。代替品にうまく移行できたら、目に見える形のご褒美、例えばシールなどを与えて褒めてあげるとうまくいく場合があるかもしれません。

そういえば息子もお婆さんを見かけると、背中をピタッと触るこだわりがあって困ったことがありました。そのときは、近くに老人がいないのを確かめてから道を歩いたり、公園で老人を見かけたら、その公園で遊んだりしないように気を付けていました。こだわりを取り上げる際に苦労するくらいなら、こだわり対象からそもそも遠ざける、それも工夫のひとつかもしれません。

どなたかのヒントになりましたら幸いです。

 

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
テキトー母さんのすすめ(アメブロ) https://ameblo.jp/tateishi-mitsuko/

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