fbpx

うちの子天才じゃね? 発達障害があるわが子の特殊能力

「〇年〇月〇日は何曜日?」の問いに「〇曜日!」と瞬時に答える。発達障害のある人はこのように、記憶力や計算など特定の能力がずば抜けている場合があります。「サヴァン症候群」というらしいですが、聞いたことのある方もいらっしゃるでしょう。

うちの息子も、ASD(自閉スペクトラム症)の特性なのか似たような能力があります。絵を描くのも得意で「天才なのでは」と勘違いし、売り込もうとしていた恥ずかしい過去があります( ˊᵕˋ ; )今回はそんなお話です。

カレンダーサヴァン

息子が小学校低学年のころだったと思います。「あれ? 〇〇の日って何曜日だったっけな……」そんな私の独り言に「〇曜日です」と息子が教えてくれたことで気づきました。

親戚が集まると、話題の中心は息子の「曜日当て」です。いろんな日付で「〇年〇月〇日は?」「〇曜日!」と答えさせ、当たっていることを確認し、みんなで「おぉ~っ!」。30年ほどの過去と未来を言い当てることができていました。

質問してから答えるまでは、2秒ほど。この2秒の間に、頭のなかで何が起きているのだろうとずっと疑問でした。「どうやって分かるの? 計算してるの? 何か見たの?」と息子に聞いてみても、これには答えられません。

「グラスを壊した日」「けんかした日」

日付に関する記憶能力も高いことが分かってきました。「誕生日」は特にお手のもの。家族、親戚、同級生、有名人、歴史上の人物、アニメのキャラクターなどの誕生日を、無数に記憶しています。

学校でも話題でした。特別支援学級に通っている息子に、通常学級の上級生が「僕の誕生日は?」と声をかけてきて、当てた息子を「すげ~!」とはやす……なんて光景を、参観日などのたび目にしていました。

ほかには親戚や有名人の「命日」、「家族で出かけた日」も覚えています。おまけに「おばあちゃんがグラスを壊した日(2009年9月22日)」、「ママとお姉ちゃんがけんかした日(2015年9月5日)」、などなど……覚えていなくてもいい日付まで、大人になった今でも言うことができます。

「好き」に働く爆発的な記憶力

息子はカレンダーが大好きで、家にあるものや、おばあちゃんの「十年手帳」のカレンダーを、小さい頃からいつも眺めてニヤニヤしていました。そのため私は「この子はカレンダーの画像データを脳内に大量に取り込んでいるに違いない」と睨んでおり、大人になりだいぶ会話が通じるようになってから、あらためて聞いてみました。

「曜日当てができるのは、カレンダーを全部覚えているから?」

すると「そうです」という答えが返ってきました。記憶の中のカレンダーを見て、曜日を答えたり、大事な日と関連づけたりしていたようです。

物を並べるのが好きだった幼少期の息子にとって、カレンダーという名の数字の羅列はきっとたまらなく好物だったのでしょう。

記憶力がいいという自閉症の特徴が「好き」に対して爆発的に働いて、カレンダーを何年分も覚えたり、そこからなんとなく「法則性」のようなものを体得して、30年前後も予測できるようになったのではないか……と私は考察しました。

「ママとお姉ちゃんのけんか」なども息子にとっては印象的な出来事で、記憶に残ることは大好きな「日付」もセットにしてしまうのかもしれません。


フリーハンドで街を描く

小学生時代の息子のもう一つの特技は「お絵描き」です。

想像上の「街」を、ボールペンで下書きなく直接紙に描いていきます。道路がとても緻密で、複数車線が交わる交差点やジャンクションが得意。通行帯に描かれたラインなどもミリ単位の間隔で引きます。一枚の紙が埋まると、道路の続きは次のページに。そうやって何ページにもわたる「街」ができていきます。

人に見せるといつもほめられるので、親としてはこんなことを思います。得意なことで認められ、自信をつけてほしい。⁡あわよくば、仕事につながって、将来生活に困らないようになってくれれば……

展示会参加を夢見て

そんなとき、障害者が制作するアート作品の展示イベントを主催している方を、知人が紹介してくれました。⁡それはそれはすてきな作品を生み出すアーチストたちを抱えた展示会です。

⁡息子を連れてアトリエを訪問し、絵を見ていただくと、主催者はとても面白がってくださり、メンバーに迎え入れる意向を示してくださいました。⁡ただし、今日持ち込んだ作品はカレンダーの裏や古いノートに描いたものばかり。このままでは展示には向きません。

⁡「大きな一枚の紙に表現できるようにならないと難しい」そう伝えられ、A1サイズ(約60×84cm)の紙に描けるようになったら再度見ていただくことになりました。
⁡⁡
あの展示会場に息子の作品が並ぶかもしれない (〃♡ω♡〃) そんなシーンを夢見て、帰宅後、早速息子に「さあ、お描き!」とばかりに大きなケント紙を与えましたが……
何かがしっくりこないのか、描きはじめてもいつものように筆が乗りません。

気づけばケント紙は放置。お姉ちゃんのお古のノートに向かう息子の姿がありました。⁡数ヶ月後に主催者が絵の進捗を聞いてきてくださいましたが、良いお返事はできず、そのままお話が進むことはありませんでした。

実際に息子が描いた絵

⁡大切なのは、子供自身がどうしたいのか

注目されればうれしいだろう。認められれば喜ぶだろう。そう思っていたのは親の私だけでした。
息子に聞くと、自分の絵を展示したいとか、世の中の人に見てほしいとかいう気持ちは「ありません」と言い切りました。アトリエ訪問時は「ドライブに行ける」としか思っていなかったようです。

自分で描いた絵の中に入って、想像の世界で遊ぶことが息子の喜び。きっとそれだけで満足なのでしょう。ひとり盛り上がる親バカな私の願いなどどこ吹く風。完全に空回りしていた母です。

親の思う正解が、子供にとっての正解とは限りません。大切なのは「子供自身がどうしたいのか」。そんな当たり前のことを、あらためて学んだ出来事でした。

障害児育児は、コミュ二ケーションのままならないことも多いので、子供の気持ちが見えにくいこともあります。でも見えなくても「ない」わけではありません。もし私が、叱ってでも大きな紙に描くことを息子に強いていたら、ストレスを与えていた可能性もあり、これでは本末転倒です。期待を押しつけすぎてはいないか、という視点も持っていたいものです。

能力は成長後どうなる?

21歳になった今、日付から曜日を言い当てる息子の能力は、実は弱まってきています。当てられる範囲は前後3年くらい(本人談)。

お絵描きも、最近はあまりやらなくなってきました。作品が見たくて「描いてみれば?」と声をかけるのですが、本人の気持ちが向かなければ仕方ないですよね。20歳を過ぎてスマホを持たせてからは、楽しみが他に広がっているようです。

息子が子供の頃に見せてくれた特殊能力は、私たち家族をずいぶん楽しませてくれました。
発達障害には親が困ってしまうような特性もありますが、こうやって親子の時間を豊かにしてくれて、子育てに疲れた私を緩ませてくれる特性もある。この「面白いなぁ」「ほっこりするなぁ」が障害児を育てる喜びのひとつだと私は感じています。

「もうダメだ!」と「かわいいなぁ」の振り幅が大きい私たちの子育てを、これからもともに味わっていきましょう。

執筆者プロフィール

細川 有美子(ほそかわ ゆみこ)

1968年生まれ、福島県在住。
バックパッカーとして海外旅行中に出会ったエジプト人と2000年に結婚。現地で子供2人を出産する。2003年子供と帰国したのち、息子の発達障害が判明。夫とは2005年に離婚。
これまでに自閉症(中等度発達遅滞)・ADHD・精神障害・難病(クローン病)の診断を受けた息子の子育てと現在を、Instagramで発信。
2014年より取材・執筆活動を開始し、現在は事業所でのパート勤務、再婚の夫とふたりで米づくりにも奮闘している。
◇たきちゃん農場 https://www.takirice.com/
◇Instagram https://www.instagram.com/yumiko_days

この執筆者の記事一覧

関連記事

  • 支援者の理想を語らないでほしいと思うこともある

    私の息子は現在23歳、自閉症と知的障害があります。親子ともども支援学校の先生、療育施設や放課後等デイサービスなど今まで多くの支援者に出会ってきました。 支援者に救われたことも多々あり感謝の気持ちでいっ …

  • こだわりボックス

    自閉症のある子は生まれつきの想像力の障害がある子だと聞いたことがあります。見通しが立たないと不安になります。そのため、心の安心、安全を保つために一定のパターンに固執することがあります。それがいわゆるこ …

  • 私が療育で得たもの─駆け出し障害児ママの入門─

    子供の発達が遅れていたり、障害があるという診断を受けたりすると、療育を検討される方が多いかと思います。私は初めて「療育」と聞いたときに、どんな施設で何をしているのか分からず不安を覚えました。そこで今回 …

  • 子ども扱いしないで

    私は週末に、知的障害者移動支援の仕事、ガイドヘルパーをしています。あるとき41歳の自閉症のある成人男性「ケンちゃん(仮名)」と外出しました。ケンちゃんは41歳なので大人ですが、知的障害もあるのでまだま …

おすすめの記事

  • コントロールできない!チック症はつらいよ

    「チック症」は「不随意運動」とも呼ばれる、自分の意思と関係なく体が動いてしまう症状です。私の息子には発達障害とチック症の両方があります。 就学前から小学校低学年頃に発症し、青年期には軽くなるといわれる …

  • 本人に障害をどう伝える?いつ伝える?

    子どもが発達障害と診断されたり、グレーゾーンだと言われた経験があると、「障害告知」という言葉が頭に浮かびます。 わたし自身も、保育園に息子を入園させる際、誰に、どこまで、どんな風に、伝えたらいいのか分 …

  • お寺に頼る「親なきあと」

    「あ~すっきりした!」「またね!」  親御さんたちが日ごろの悩みやただの愚痴を思いっきり吐き出して、あっという間に2時間半が過ぎます。大阪・願生寺で行われる「親あるあいだの語らいカフェ」の光景です。終 …

  • 発達障害のある子の偏食の原因と3つの問題

    はじめまして。広島市西部こども療育センターの管理栄養士の藤井葉子です。 私は、療育センターの通園施設や保育園や学校に通っているお子さんの拒食・偏食・肥満などの栄養に関するご相談をお受けしています。読ん …