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個人的な話-きょうだいである私のこれまでとこれから

前回のコラムでは弁護士として「法律上、きょうだいが障害のある兄弟姉妹の世話をすることは義務や強制ではない」(障害のある兄弟姉妹との関係で「きょうだいがしなくてはいけないこと=義務はゼロ」で、「きょうだいができることをしたい=プラスアルファ」というのが法律の考え方です。)ということ、また、親御さんが早いうちからオープンに行政や専門家などの情報や支援につながることの大切さについてお伝えしました。

ここで私自身の話を少しさせてください。

自分の道を探して

私は障害のある弟のことは好きで、仲も良かったのですが、親や周囲から「お姉ちゃんがしっかりしないとダメだよ」「弟の分も頑張って、お父さんの跡を継いで弁護士になって」と言われてきました。自由奔放に生きているように見えて、自分の進路や結婚を考える時は、弟の障害のことや親や周囲からの期待が常に頭にありました。弟に障害があることで、ジロジロ見られたり、ヒソヒソ話をされることが嫌で、見返してやりたい!とも思っていました。

もともと怠惰な性格の私は、そのようなことがあったからこそ頑張れたと感謝している面もあります。しかし、今から振り返ると、気付かないうちに無理をしていた部分もあったのだと思います。弁護士になり、地元で父と一緒に数年間働いたのですが、結婚を機に、一度レールを外れ、自分の本当にやりたいことは何か、自分にとことん向き合ってみることに決めました。

父や周囲の期待に応えられなかった申し訳なさや心の痛みを感じましたが、夫や母、きょうだい会や弁護士の先輩が「もう十分頑張ったのだから、自分が元気で幸せでいられることを一番に考えて離れた方がよい」と言ってくれたのがありがたかったです。

私は、手話通訳の専門学校に2年間通った後、父の事務所から独立して、きょうだい・ヤングケアラー経験者としての活動や発信を本格的に始めました。両親や弟が、私のきょうだいの活動について、家族としての複雑な思いを持ちながらも「自分の道を頑張れ」と理解して応援してくれたことは嬉しいことでした。(このような環境にないきょうだいがたくさんいることは忘れないようにしたいです。)

 

手話通訳の専門学校で驚いたこと

手話通訳の専門学校では、福祉や障害児者への支援についても学んだのですが、「世の中にはこんなにも行政や専門家による支援があるのか!」と正直驚きました。

母も頑張っていましたし、弟も支援は受けていましたが、それでも「もっと早く出会っていればよかった」と思う人や情報があり、いろいろと考えさせられました。

支援以外に知っておきたかったのは、弟や自分の将来像のモデルです。私が、子どもの頃、大人になった障害のある人やきょうだいとの関わりがありませんでした。そのため、「将来はどうなってしまうのだろう?」「結婚はできるの?」と疑問と不安ばかりで安心できるイメージが見えませんでした。

大人の障害のある人たちに出会ったのは、弁護士になってからです。制度を利用して支援を受けながら、充実した生活をしている人が多くいらっしゃいました。もちろん、制度や支援が足りない部分があったり、大変なことが多いのも事実ですが、「教えてもらっていれば、あんなに心配する必要はなかったのに」と思いました。結婚については、きょうだい会の先輩の体験談がとても参考になりました。

親や弟との関係は、しばらくコロナ禍もあり、やや離れていたのですが、最近、親が年齢を重ねてきたこともあって、実家に行く回数が増えてきました。親なきあと問題の入口にいるのを感じます。今後は、先輩きょうだいから聞かせてもらってきた親の高齢化や親亡きあとの体験談を活かして、家族に対して自分なりのベストを尽くせたらと思います。もちろん、何事も、こうすればよかったという後悔はつきものだと思いますが、どうすればよかったのかを含めて発信させていただけたらと思います。

『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと: 50の疑問・不安に弁護士できょうだいの私が答えます 』藤木和子著(中央法規出版)

家族全員の幸せのために

昨年2023年、全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会の60周年記念シンポジウムで、親の方々が「きょうだいにも幸せになってほしい」と言ってくださったことがとても嬉しく、私にとって非常に大きな励みになりました。その言葉は、きょうだいが親から認められ、愛されていることを感じさせてくれました。常に味方でいてくれることが、私たちきょうだい児にとってどれほど心強いかを改めて感じています。

親の方々に伝えたいことはたくさんあります。きょうだいとして近くで見て、お話を伺ってきましたが、障害のある人やその家族への偏見がまだ残る社会で、支援や受け皿も十分とは言えない中、これまでやってこられた親の方々には頭が下がる思いです。そして、これからも共に進んでいきたいと思います。対話を深め、未来を築いていきたいと思います。

きょうだいはもちろん、障害のある兄弟姉妹にも、親にも、支援者や周囲の方々にも、健康で幸せになってほしいです。自分が幸せであることによって周囲を幸せにできるのだと思います。ありがとう、そしてこれからもよろしくお願いします。

 

執筆者プロフィール

藤木和子(ふじき かずこ)

1982生まれ。弁護士。
障がいのある弟と育ち、「障がいのある人のきょうだい」の立場で活動。
全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会 副会長
シブコト障害者のきょうだいのためのサイト 共同運営者
聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会 代表
NHK、AbemaTVに出演、新聞各紙に掲載。
YouTube ⇒ SODAきょうだい児と福祉、法律、情報ちゃんねる
最新プロフィールはこちら⇒https://note.com/kozukazuko/n/n71a9179ad833

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