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子どもに伝わる視覚支援(準備編)

発達障害やグレーゾーンの子どもへの指示は、絵カードや視覚的に指示を出すことが有効だと聞いたことはありませんか?

でも、いざ絵カードを作っても子どもは見向きもしない、ということも少なくありません。そんな子どもの姿を見ると、「うちの子に絵カードは合わないんだ」と判断しがちになります。手間も時間もかかったのに……と虚しくなってしまいますよね。

でも、合わないと決めつけてしまうのは、ちょっと待ってください。お子さんによっては、ほんの少しでも気になる刺激があるとそこが気になってしまう場合があります。

例えば、わたしが発達支援センターで指導員をしている時、担当のお子さんに絵カードを提示したことがありました。でも、そのお子さんは絵カードをチラッと見て、すぐにそっぽを向いてしまいました。後で親御さんから、「うちの子は、絵カードに枠がついていると気になってしまうんですよ」と、教えていただきました。

「木を見て森を見ず」という言葉を聞いたことはありませんか?この言葉のように、発達障害の子どもの中には細かい部分に集中したり、気になったりしてしまい、全体に目を向けることが難しい子がいます。

逆にいうと、その子にとって余分な刺激を減らす工夫をすれば、効果的な活用ができる可能性があるということです。

これまで絵カードを作ってもうまくいかなかった方も、そろそろ作ろうと思っている方も、今回ご紹介する絵カード作りの5つのコツをぜひ参考になさってくださいね。今回は「準備編」次回は「実践編」でお届けします。

 

視覚支援が伝わるための事前準備

実践の前の事前準備、これが非常に大切です。

事前準備1.概念の確認をする

視覚支援を提示する前に、子どもに「マッチング」の概念があるかを確認しましょう。マッチングとは、「同じ」ということや「組合せ」を理解しているということです。

視覚支援は、平面の絵カードや写真、または実物を提示して、子どもの行動や動作を引き出したり、促したりします。子どもが自分の目に見えているものと、行動が一致しないと視覚支援の効果が得られないのです。

パズルがスムーズにできる子どもは、「マッチング」の概念があると言えるでしょう。もし、パズルに苦労しているようであれば、立体のものやピース数が少なく大きいものからレッスンし、「マッチング」の概念を理解してもらいます。5ピースあるパズルなら、4ピースはあらかじめはめておき、最後の1ピースのみ子どもにはめさせて、「できたね」「同じだね」と声をかけていきます。1ピースが簡単にはめられるようになったら、1ピースずつ増やしていきましょう。

コツは、子どもが「もっとやりたい!」と思えるところで止めることです。子どもが嫌にならないレッスンを心がけましょう。


事前準備2.子どもが理解できる形にする

「視覚支援」と聞くと、絵やイラストを描かなければならないのか・・・と面倒に感じる親御さんもいらっしゃるかもしれません。でも、絵やイラストは視覚支援のごく一部、お子さんの発達や認識によって、視覚支援の「形」はそれぞれです。

 

特に、年齢が低いお子さんに多いのですが、実物と視覚支援が同じものだと認識できていない場合があります。お子さんに伝わる視覚支援の方法なのか都度確認しましょう。(パズルで「マッチング」ができていても)

ここで、視覚支援のひとつ「写真」がお子さんに伝わるかどうか確認するやりかた場合のやり方を紹介します。

まず、お子さん専用のコップ(※例です)を撮った写真を見せて、「同じものを持ってきて」と指示を出します。お子さんがコップを持ってこれたら、実物と違う大きさの、平面の写真を理解できているということなので、次の段階の絵やイラストに進むことができます。コップを持って来れない場合は、写真をコップと同じ大きさに切り取って同じように試す必要があります。

とはいえ年齢が高くなってくると、絵カードを嫌がるお子さんもいます。「子どもっぽいから」「周りは誰もやっていないから」など、理由はさまざまですが、お子さんの気持ちを大切にすることも大事です。「視覚支援」といっても、絵カードだけではありません。文字や色分け、付箋など、お子さんと相談しながら進められるとよいですね。

ちなみに、わが家は中学3年生になった今でも、視覚支援の一環で国語のノートはピンク、数学は青、社会は黄色、理科は緑と決めています。ノートを色で分けることで、探しやすくなったり、カバンから取り出しやすくなったりします。さまざまな形やアイディアを出してみましょう。

事前準備3.肯定的な指示(視覚支援)にする

お子さんに視覚支援を試してみたいと思っている方は、今どんなことに悩んでいますか?もしかすると、やってほしいこと(促したい行動)よりもやめてほしいことの方が多く、叱ってばかりだと悩まれているかもしれませんね。でも、視覚支援は「肯定的」であることがとても大切です。

例えば、怒ると物を投げてしまうお子さんに対して、おもちゃを投げるイラストに✕(罰マーク)をつけることは逆効果です。なぜなら、✕(罰マーク)に注目し、行動が繰り返されることがあるからです。

特に、お子さんにとってはじめて見るもの、好きな色や形、逆に嫌いなものには、こちらの意図とは違う伝わり方をしてしまう可能性があるので注意しましょう。

事前準備4.子どもに確認しながら作る

視覚支援グッズを作る際、お子さんに確認しながら作ることも大切です。お子さんに確認せずに作って、いざ見せても「スルーされた」という経験をお持ちの方はいませんか?

わたしも今まで、色々な絵カードや工程表を作成してきました。ネットで画像を探したり、ラミネーターまで購入したのに息子が見向きもしない……なんていう経験、一度や二度ではありません。

「うちの子は絵カードは合わないのかな?」と思っていましたが、何度かチャレンジしているうちに、息子とわたしの「分かりやすさや見やすさは違うんだ」ということに気付いたのです。

シンプルなものの方が理解しやすい子、色が付いている方が注目しやすい子。お子さんの性格や特性によっても変わってきます。ぜひ、途中で「これは何のことか分かる?」「どっちの絵が好き?」などと、お子さんに確認しながら作成してみてくださいね。

事前準備5.その子ができない課題を指示しない

視覚支援は、言葉では伝わりにくい時に絵や文字などを提示することでお子さんの行動を促す方法です

しかし、これまでの事前準備を全てクリアしたからといって、どんな指示も通るということではありません。課題の中にお子さんの特性や苦手なことが入っている場合、どんなに完璧な絵カードを提示しても、お子さんの行動を引き出すことが難しくなってしまいます。

例えば、教室から脱走してしまう子どもに対して、教室から脱走しないように椅子に座っているイラストを見せて「椅子に座っていようね」と指示を出します。でも、ある一定の時間になると離席し、教室から脱走してしまいます。このお子さんに視覚支援が効果がない理由はなぜでしょう?

実はこれはうちの子の例です。息子は歌や音楽の時間に教室から脱走してしまうことがありました。なぜなら、聴覚過敏があったからです。視覚支援の効果が感じられない場合は、特性が原因でお子さんができないことが課題に含まれていないか?を確認することも大切です。

次回は「実践編」をお届けします。

執筆者プロフィール

浜田悦子(はまだ えつこ)

発達障害・グレーゾーン専門
子どもとママのための家庭療育アドバイザー

繰り返す問題行動に怒られてばかりの子どもと 孤独な子育てに苦しんでいるママに寄り添い、 子どもの自己肯定感とママの子育ての自信を取り戻し 笑顔に導く家庭療育アドバイザー。
自身の子どもが発達障害と診断されたことをきっかけに、発達支援センターの指導員へ。以来、約2,000人以上の親子に関わる。
大学、発達支援センター、放課後等デイサービスでの講演・研修多数。

【著書】
『発達障害&グレーゾーンの子どもを「急かさず」「怒らず」成長を引き出す言葉かけ 』浜田悦子 (著), 汐見稔幸 (監修) 実務教育出版

【執筆・監修】
ユーキャン 子ども発達障がい支援アドバイザー講座
ユーキャン 思春期発達障がい支援アドバイザー講座

【メディア掲載】
毎日新聞、中日新聞、朝日新聞、ひよこクラブ、朝日新聞 WEEKLY AERAなど

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