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SNSとの賢い距離のとりかた ―「使わされる」のではなく、「使う」コツ (後編)

(※このコラムの「前編」はこちら) 私は、ここ20余年で「インターネットを使うプロ」になったと思います。インターネットに触れてきた長い年月の中で、インターネットの酸いも甘いも噛み分け、サービスの大きな潮流も体感してきた。私のような古参のインターネットユーザーは自らのことを「インターネット老人」と揶揄することがありますが、そんな感じです。
私はこうした中で、SNSをマーケティングのターゲットとして「使わされる」のではなく、自ら選んでコントロールして「使う」ことが可能になったのです。

「インターネットのプロ」おすすめのXの使い方

「インターネットを使うプロ」として私が言えるのは、「自分の毒になる要素をできるだけ除き、自分の栄養になる要素だけをちゃっかり使おう」ということです。
相手は、たとえユーザー個人の毒や不利となったとしても、できるだけ長時間、できるだけたくさん利用させ、できるだけ広告を見せることで儲けようとしている営利企業で、彼らのサービスに依存させるプロです。こちらもプロとして、自分の栄養や利益になる部分だけ「掠め取る」のでなければ、すぐにやられてしまいます。
たとえば、Xを使うにあたって、こんな対策があります。どれも、全てやらなければいけない! というわけではないので、自分に合っているなというものを試してみてください。

刺激的なコンテンツを排除して精神衛生を保つ

刺激的なコンテンツを排除して自分の精神衛生を守るための対策にはいろいろあります。

・「トレンド」を非表示にするブラウザ拡張機能を使う(PC)
・Xにアクセスするさいの最初のページを「ホーム」以外にし、「ホーム」や「おすすめ」を見ないですむようにする。たとえば、自分のプロフィールページからアクセスし、タイムラインはリストからのみ見る(PC)
・広告設定の「興味関心」のチェックを全て外す
(大量にあるので時間がかかります。すぐに勝手にチェックが入れられていくので、ときどき確認してまた外します)
・少しでも心がざわっとするポスト・広告が流れてきたら「興味がない」を押して非表示にする
・見たくないポストが多いアカウントはどんどんミュートする
・自分が動揺しやすいキーワード、炎上したり激しい議論になったりしやすいキーワードはミュートする(何かと義務感や罪悪感、怒り、その後の経緯を知りたい強い欲求などが邪魔すると思いますが、それ自体がストレス・トラウマ反応の症状だと考え、見ないで済むようにします)

私の場合、上記の対策のおかげで、可愛い猫や犬、小鳥、美味しそうな食べ物、言語関係の面白い小話ぐらいしかTLに流れてこなくなり、すこぶる平和で楽しい空間を保てています。

利用するためのハードルを上げ、メリットを下げる

Xを見るための手間をわざと増やし、また、苦労してアクセスしてもあまり楽しく快適でないようにする方法です。

・URLやアプリごとに閲覧・利用をブロックするアプリを使う
(何時から何時までは使えない、とするスケジュールモードや、何時間使ったら使えなくなる、という利用時間モードがあったりします)
・画面を白黒モードにし、見づらく、楽しくない状態にする(通常型の色覚の人の場合)
・ブラウザの「お気に入り」や、アプリを削除する

私はこうした対策のおかげで、手持ち無沙汰のときについ無意識にアクセスしてダラダラ長時間閲覧してしまう、ということがずいぶん減りました。

他SNSへの移住

前回書いたように、ついにXの代替となるのではと期待が持てるSNS「mixi2」が登場しました。今までXの代替を目指したSNSは無数に登場してきたのですが、いまいちメジャー感やサービスとしての安定感に欠け、登録のしかたも大変だったりして開始のハードルが高かった。でもmixi2はかなりの大物感があります。「いつもTLにいるあの人」の多くが参加してきてくれそうな気配があります。

ともかく、邪魔な広告がない。TLに自分の選んだもの(フォローしている人のポスト)のみが時系列で流れてくる。これができるだけで、SNSとしては満点です。これは、昔のTwitterにはあったのにどんどんなくなっていった機能で、多くの人がこの点だけでもmixi2のほうを快適に感じるでしょう。

現在のところは招待制で、誰かから招待リンクをもらうというハードルはありますが、既にXをやっている人にとっては比較的容易なのではないかと思います。個人的には、Xからの移住先を探している人には、SNSとしての使用感という意味ではまずmixi2をおすすめしたいです。

※サービスが今後どう展開していくか、実際どのような場になっていくかは読めませんし、データの安全性等についても未知数です。あくまで、個人的な期待感という点でだけご参考になさってください。

私にとって「本当の救い」はインターネットにはなかった

今でこそ賢くSNSをコントロールして使っている私ですが、以前はTwitter依存を起こし、一日中Twitterで攻撃的な議論をした挙句、炎上して離婚スレスレの事態に発展したこともありました。

振り返って思うのですが、当時の私がいくら上記の対策を試しても、結局うまくコントロールできなかったでしょう。なぜかというと、当時の私には圧倒的に「つながりと情報」が欠けていたし、心身が今よりはるかに不安定だったから。

深刻な欠落、欠落を充足したいという切実な希求が根底にあり、オフライン(現実の社会生活)での人間関係や日常生活が脆弱で、アンコントローラブルだった。そんな危機的な状態の人がSNSの利用だけ健全にコントロールしようとしたって、やっぱり無理があったと思うのです。

私がここまでSNSを自己コントロールして使えるように至るには、やはり、人間全体として癒え、健康になっていくステップが欠かせませんでした。トラウマ治療、自らの自閉傾向についての深い理解、現実の人間関係の安定化、服薬や主治医からの指導による生活リズムや日中の活動量の調整… こうした全ての積み重ねの結果、ようやっと「SNSだけが救い」「SNSがなければ死んでしまう」という状態を脱することができました。

私にとって本当の救いは、結局オフライン(現実・生身の社会生活)にあったと感じています。今、過去にSNSに求めていた機能のひとつである「ライフログ」は、あえて紙の日記帳を買って手書きで書くことに移行しました。手触りと実感があり、とてもよいです。3年連用日記といって、3年間書き続け、2年目からは過去の同じ日付の日記を見返しながら書いていけるというもので、自分の振り返りとしてとてもよいと思ったのです。

だけど、インターネットは「きっかけ」をくれた

このように、私は今、自分のオフラインにおける救いを噛みしめています。だけど、インターネットは私に、確実に「きっかけ」をくれました。オフラインの救いを得るためのきっかけを。

このように、私が上に対策として書いたものを含め、残念ながら多くのライフハックは、ある程度以上の本人の健康さがあって初めて十分に機能するものなのではないかと思います。インターネット、SNSも、救いそのものはくれないかもしれない。けれど、きっかけはたくさんくれるのです。

インターネット、SNSに触れる前の私は、つながりだけでなく情報にも欠けていました。でも、インターネット、SNSはつながりも情報もくれた。私が自分のASDに気づいたのも、Twitterで交流していた鍼灸整骨院の先生のところに行ってみたら聴覚過敏を指摘されたことがきっかけだったのです。

医療にせよ福祉にせよ、障害者にとっては、まだまだオフラインにはつながりや情報が少ないことが多いですよね。でも、インターネットにはある。インターネットにつながる環境があり、そこでの情報を掴める力さえあれば、きっと誰しもいつかは救われる、助かる、と私は信じたいし、救われ、助かってほしいです。

今この記事を読んでいるあなたも、それだけで幸運の女神の前髪を掴んでいるのだと、私は思っています。

執筆者プロフィール

宇樹義子(そらき よしこ)

1980年生まれ。早稲田大学卒。ASD、複雑性PTSD。
2015年に発達障害当事者としての活動を始める。LITALICO発達ナビなどで連載開始。 2024年、日本語教師としても活動を開始。複数メディアで活動を続けながら、次の発信を模索中。
現在、発達支援×日本語支援の分野に興味津々。

【著書】
#発達系女子 の明るい人生計画
―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました

80年生まれ、佐藤愛 ―女の人生、ある発達障害者の場合

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