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生まれた意味を考える

子どもは親を選んで生まれてくると言う人がいますが、これは本当なのでしょうか。実際そんなことは起こりえません。綺麗事だと私は思ってしまいます。それから、育てられる人のところに生まれてくると言われることもありますが、それもないと思います。だって、虐待する親の元に生まれてきた子も親を選んでやってきたのでしょうか。そんなはずないですよね。

 さて息子が幼かった頃、栄養士の資格を持つ知人がいました。知人の子どもは食欲旺盛で偏食ではありませんでした。周りのママ友達は「やっぱ、子どもは親を選んで生まれてくるよね」と言っていました。

 もし、その親御さんの子どもに発達障害があり、舌の感覚過敏により偏食だった場合はどうでしょうか。もしかしたら周りは同じように「子どもは親を選んで生まれてくるよね」と言葉をかけるかもしれません。どちらにしても周りは良かれと思って言葉をかけてくれますし、きっとそこに深い意味はありません。

 障害児の親になんかなりたくなかった

 私は特別支援学校、幼稚園、小学校の教員免許を持っています。当時の周りのママ達から見たら専門家のように見えたのかもしれません。

 「やはり、子どもは親を選んで生まれてくるのね、立石さんだからやってきたのね。」と先の栄養士のママにかけた言葉同様、言われました。

 私は心の中でこう叫びました。

 「選ばれたくなんかなかった、障害児の親になんかなりたくなかった、普通の子を育てることを夢見ていた、こだわりに付き合う奴隷のような生活は送りたくなかった」と。

 息子が幼かった頃は療育の鬼になって「少しでも普通の子に近づけたい」と必死でした。だから療育施設の支援員さんの背中をみて接し方も変えました。多少行動は改善されたかもしれませんが、どんなに療育しても息子は普通の子にはなりませんでした。

 価値観の変化

さて、6歳になって息子は特別支援学校に行き、放課後等デイサービスにも毎日通いました。放課後等デイサービスに行くとダウン症、その希少染色体異常、息子よりも重い自閉症、軽い自閉症、様々な障害がある子がいました。

 支援学校の実習生時代、教師という立場で見える景色と、母親としてみるそれは、全く違いました。また信頼できる福祉業界の支援者の方との出会いもあり、以前より気持ちに余裕をもって子育てできるようになりました。

 息子に比べて周りの定型発達の子の成長は目覚ましく、以前はそれをうらやましく思ったものでしたが、学生時代の同級生が子どもの受験で目を吊り上げている中、私はそんな苦労はしないで済みましたし、子どもの恋愛問題で頭を悩ますこともありません。塾代、習い事代、膨大にかかる教育費の工面に苦労する必要もない、そんな自分を幸せだとさえ思うようにもなりました。

 普通という呪縛からの解放

「子どもは親を選んで生まれてくる」ということはありませんが、「息子は私の価値観をぶち壊すために私の元に生まれてきた。人並である、普通という呪縛から私を解放するためにやってきた」ということだけは確かです。

 親なき後の我が子の人生のことは不安ですが、毎日の生活については私自身が「普通」に囚われることがないので、ある意味楽です。

私たち親子を取材して書かれたルポタージュ『発達障害に生まれて』(松永正訓著 中央公論新社)の帯に寄せられた、ノンフィクション作家・河合香織さんの言葉を引用したいと思います。

「私たちは自分で想像している以上に、普通という価値観に縛られて、そのために幸せから遠ざかっている」

 今更この言葉が胸に染みます。

 ありがとう、息子!感謝状を贈りたいと思います。

 

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
テキトー母さんのすすめ(アメブロ) https://ameblo.jp/tateishi-mitsuko/

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