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カウンセリングに挫折した話

精神面の不安や不調をやわらげたいとき、カウンセリングの利用を考えたことのある方もいらっしゃるでしょう。私の息子には知的障害を伴う自閉症がありますが、彼がパニックに苦しむ姿を見て、なんとかせねばとカウンセリングに通わせたことがあります。ところが私と息子、双方の理由で続けられなくなってしまいました。

今回は私が息子にカウンセリングを受けさせて感じたこと、挫折した苦い経験をお伝えします。反面教師にしていただければ幸いです (*ノ>ᴗ<)

もっと息子に向き合ってほしい

息子は特別支援学校高等部に入学して2か月ほど経った頃、頻繁に不穏な状態に陥り、暴れたり物を壊したりするようになってしまいました。

学校とは密に連絡を取って、原因と思われるものを取り除き、ストレスを与えない対処を双方で徹底しました。同時に医療の力を借りましょうとなり、通院を開始。しかし間もなく、私の中で精神科の診察に対して不満が湧きはじめました。
どこもそうなのかもしれませんが、当時通っていた精神科はいつも混んでいて、せかされるように2、3分ほどで診察は終わり。医師は私から近況を聞くといつもの薬を処方するだけ。息子に話しかけることもありません。

どうして患者本人を診ないのだろう。もう子供ではないし、一緒に来院する親の言うことが正しいとは限らないのに。お腹が痛いときにお腹を診察するように、この子の心を診て何が起きているのか教えてはくれないのだろうか。

その気持ちを、機会があって別の精神科医に話したところ、じっくり向き合うには診察時間では足りないと、外部のカウンセリング利用を勧められました。

「治してくれ!」とガチガチの私

いくつか紹介された中から、実績があるという機関の門を叩きました。
正式依頼の前に、カウンセリングが有効か検討するため、状況や希望を伝える面談の場が設けられます。そこで私はこのように訴えました。

「息子はパニック・自傷行為・他害等で苦しんでいる。何が問題でどうすればいいのか、私と学校の知識だけでは足りないと感じている。専門家の目で息子の問題点を読み取り、治療法を見立ててほしい。息子が自分に向き合って、自分で気持ちをコントロールできるように助けてほしい。」

長年苦しんできたものがそう簡単に変わるはずもないのに、当時の私はガチガチに「治してくれ!」という心境でした。

カウンセリングを進めるため、会話能力を確認されたのですが、息子は日常生活に困らない程度の意思疎通はなんとかなるので、この点はクリア。
「まずははじめてみましょうか」となり、月2回、通うことになりました。

息子本人はカウンセリングにピンときていないながらも「ぼくをいじめた人やつらいことを、忘れる方法を教えてほしい」という気持ちはあったよう。でも実際はカウンセリング施設への車での移動をドライブとして楽しみにしていて、こちらが目的になっていたようです。

カウンセリングの実際

カウンセリングの先生はさわやかなとても感じのいい男性で、若い女性が助手を務めていました。

一回のカウンセリング時間は50分と厳密に決められています。初回は私と先生が話すだけで時間いっぱい。2回目以降は先生が息子と関わって対話を進めていく……はずでしたが、人懐っこいはずの息子が、緊張しているようで先生の顔もまともに見られません。居心地が悪く、早く帰りたそうな様子です。

これまで何があったのか、どう感じたのか、今どんなつらさを抱えているのか、どんなことをストレスと感じるか、……このようなことを話すのは、今の息子にはハードルが高いと思われました。

なので「まずは息子さんと仲良くなるところからですね」ということになり、先生と助手さん、息子の3人で、ボードゲームなどで遊びながら打ち解けようという作戦がはじまりました。私は別室で待機です。

カウンセリングさせない息子

さて限られた50分のうち、はじめに最近の状況を私と先生が話すのに10~15分、終わりに先生からの感想や見立てなどを話すのに15分を要します。つまり先生と息子が向き合う時間は20~25分しかありません。

先生は息子のふとした動きや言葉遣い、表情から心の動きを読み取ってくださり、よく気がつくな、さすがプロだなと感じてはいました。けれども通いはじめて数か月。「仲良くなる作戦」は終わる気配を見せません。息子が先生に対して自分の内面を話題にするような「カウンセリング」をさせることを、許す雰囲気にならないのです。

それもそのはず、カウンセリングを受けさせたいのは親の私であって、本人からすれば、特にやりたくもないゲームを知らない大人とやる不思議な空間に、親に連れられ仕方なく来ているだけ。心の問題には触れられたくないらしく、何か聞かれても「あー大丈夫です」と返すか、話題を変えるばかりなのです。

カウンセリングはすぐ結果が出るものではないと聞いていましたが、本当にその通りになりました。

内面に触れられる苦痛

カウンセリング料は保険が利かないので、料金は当日現金で前払いです。たったこれだけのために毎回決して安くない料金を払うことがキツいなあと思いはじめた、ある日のこと。息子にいま一歩切り込めない先生が、息子を知るためには、性格や性質を多少は授けたであろうお母さんを知ればよいのではと、私に対して質問をはじめました。

私の性格、考え方、感じ方、そういう内面に触れるような質問をされ、私はそれを苦痛に感じてしまいました。私はもともとあまり自己肯定感が高いほうではないので、自分のことを語るのは苦手です。しかも相手は男性なので、なおさら困惑しました。

そこで気づいたのです。私は自分が苦痛に感じることを、息子にさせているではないか!
息子を楽にしたい一心で起こした行動で、逆に息子をつらい気持ちにさせていたなんて。
私は一体何をやっているのだろう。そして先生の理論で言えば、息子が核心に触れさせないのは、自分をオープンにできない私の問題? もしかしたら、カウンセリングを受けた方がいいのは私のほう? なんだかよく分からなくなり、それ以降、通い続けることができなくなってしまいました。

本人の意思が大切?

医師の勧めで通いはじめたカウンセリングでしたが、受ける本人にその気持ちがなければ、効果は見込めないのだと学びました。

カウンセリングという方法を取る前に、本人にその必要性を理解してもらい、受けてみようという気持ちになるまで導いてから受けるべきだった……客観的に見ればこうなのかもしれません。けれど息子の場合、それはきっと難しいでしょう。なぜならカウンセリングを受け入れることは息子にとって「自分は問題のある人間」と認めるに等しいことだから。今回息子の抵抗を見て実感しました。自分の障害を受容できていないのです。

ん? ちょっと待ってください。
そもそも私がカウンセリングに求めたのは、先に記した通り「息子が自分に向き合い、気持ちをコントロールできるように」なること。これができないから利用を決めたのです。

「自分にはカウンセリングが必要」と認められなければカウンセリングは受けられないの? 自分を受け入れられるようになるためにカウンセリングがあるのでは? ……この堂々巡りに、しばらくモヤモヤがつづきました。

本人に合う施設か確認を

息子の「カウンセリングへの抵抗感」に対して、「仲良くなる作戦」や「母親の気質理解」以外の手法を、持ち合わせていない先生に当たった。私たちが選んだのが、たまたまそういう施設だったということなのだろう。今ではこのように思っています。

心の問題に直接触れるのではなく、絵を描くなどのアプローチをする所も、世の中にはあると聞きます。でもそんな気の利いたカウンセリングルームが自分の住む地方にあるのか、探す気力も湧かなくなっていたので、わが家のカウンセリング利用は結局、このままフェードアウトとなりました。

気になるカウンセリング施設が自分(子供)に合うのか、実際はお金と時間をかけて通ってみなければ分からないことのほうが多く、行動を起こすには勇気が要りますよね。正式依頼の前に、本人の状況をどれだけ共有できるか、それに合うアプローチができる施設なのかを確認することが大切ではないかと、挫折してみて感じています。

ろくに準備もせず、あまり考えずに動いてしまうところがある私。走って転んで学んだ経験のひとつですが、何かみなさんの参考になることがあればうれしいです。

執筆者プロフィール

細川 有美子(ほそかわ ゆみこ)

1968年生まれ、福島県在住。
バックパッカーとして海外旅行中に出会ったエジプト人と2000年に結婚。現地で子供2人を出産する。2003年子供と帰国したのち、息子の発達障害が判明。夫とは2005年に離婚。
これまでに自閉症(中等度発達遅滞)・ADHD・精神障害・難病(クローン病)の診断を受けた息子の子育てと現在を、Instagramで発信。
2014年より取材・執筆活動を開始し、現在は事業所でのパート勤務、再婚の夫とふたりで米づくりにも奮闘している。
◇たきちゃん農場 https://www.takirice.com/
◇Instagram https://www.instagram.com/yumiko_days

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